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記事一覧

【短い物語】 自慢の娘

 17時のベルが鳴ると、横山ジェニファーはすぐさま手を止めた。それに続くように、工場の端から端まで平行に並んだ3つのベルトコンベアがガタンと音を立てて止まる。横山は作業台のパイプに引っ掛けてあったタオルをつまんで、右手のベタついた指をさっと拭うと、タオルを丁寧に四つ折りにしてパイプに掛け、一目散に組長のところへ歩いて行った。 「くみちょ わたし ざんぎょお にじかん?」 「そう、2時間、大丈夫?」 「ああ そうねえ わたし きょお ちょと はやく かえるの したいね いちじ

【短い物語】 リサと私はベスト・オブ・ベスティー

 リサが私を不安げにチラッと見た。村井さんが変なこと訊くからだ。どうして私とリサが仲良くしてるのかなんて、変なことを。  学食のテーブルを挟んで私らの向かいに座っている村井さんは、全然悪気なんて無さそうに私らの答えを待っている。リサはどうせ答えないだろうから、私が答えることにする。いつものことだ。 「なんとなく、気が合ったんですよね。学部も一緒だし」  そうなんだ、と、つまらなそうに村井さんが言うと、リサが隣でそう、そう、と頷くのが分かった。  リサは別に無口なわけでは

【短い物語】 ウェイトリステッド

 久しぶりに寿司を食べようと中嶋さんを誘って回転寿司屋に行くと、車を降りるなりエントランスあたりに待ってる人々が見えて、途端に寿司を食べる気分が失せてしまった。  もう時間的に他の店を探す余裕は無かったから、胸の奥に引っ込んだ寿司の気分をかろうじて手繰り寄せて、ドア横のウェイトリストに〝ナカジマ〟と書いた。  僕はこういうときに連れの名前を書く。  飲食店で待つことを中嶋さんが嫌がるタイプなのかは知らない。僕は嫌がってないようにふるまっているけれど、中嶋さんもそうかもしれな

【短い物語】 ザ・ムーン・イズ・ビューティフル

 ユウくんがウサギになって一週間が経った。  さっきから座椅子を占有しているユウくんに目をやると、人間だった時と同じ茶毛がふわふわと扇風機の風に揺れている。  最初こそ完全に混乱状態だった俺らも、四日目あたりからは冷静になっていた。冷静、というか、単に混乱していることに疲れただけかもしれない。  月曜から授業が再開するとユウくんは言っていた。オンラインとはいえ、出席は取るだろう。大学というのは、単位を落とすとか出席が足りないとか、そういうことがよくあるらしいから、案外しば