福岡マラソンの必要水分補給量の予測
今は秋のマラソンシーズン真っただ中である。マラソンで難しいものの1つが水分補給だ。その必要な量や内容、タイミングは天候によって大きく変わり、これを誤るとパフォーマンスにも影響する。今回は、筑後川マラソン、富山マラソンに引き続き、福岡マラソン(11月12日(日))の必要水分補給量を予測する。
なお、気象データは、日本時間2023年10月28日9:00時点の予測値に基づいており、脱水量、水分補給量の試算もこれに基づいている。今後予測値が変化すれば、計算結果も変わってくることに留意されたい。(適宜追記で更新値を記事の修正の形で出しておく予定だ)
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福岡マラソンのコース概要
まず、フルマラソン(42.195㎞)コースにつき概説する。福岡市中心部の天神交差点付近をスタートし、直後に左折した後那の津通り、百道地区、今宿地区を西進、一旦九州大学キャンパスに入る。同キャンパス内で折り返した後、糸島半島を北回りに迂回するコースとなり、風光明媚な海岸線を通った後に、糸島市交流プラザ付近のゴールに到達する。沿道の風景の都会から自然への変化もコースの特色である。九州大学キャンパス内、糸島半島の32㎞付近にやや急な勾配がある。
フルマラソン以外には、ファンラン・車いすのコースが設置されている。いずれも、スタートはフルマラソンと同じく天神交差点付近、ゴールは福岡市博物館付近となっている。
2023年は11月12日(日)に開催、スタート時刻は午前8時20分である。
公式HPに掲載の地図を引用すると以下のようになる。
コースの詳細は以下も参照。
動画付きの地図は下記サイトのとおり。ここでは、最低標高0m、最高標高31m、高低差31mとされている。
獲得標高(※1)は、以下のサイトによれば139mとなっている。
以下の推定では、獲得標高は上記データ通り139mとする。スタートとゴール地点の標高は不詳だが、マップからはゴール地点がスタート地点より若干高くなっている。国土地理院地図からの類推も踏まえ、スタート地点に比べゴール地点は5m高いものとした。
※1:登った高度の累積の合計。一部サイトでは、「累積標高」と呼ぶこともある。500m登るコース、300m下るコースでは、獲得標高は差し引きの「200m」ではなく、「500m」になる。
脱水量推定の流れ
以下の流れで脱水量を推定する。
(1)ペルソナの設定(体重、走行速度)
(2)複数地点の特定時間のWBGTの推定
(3)上記からの脱水量の推定
なお、脱水量の推定は、私が試作した以下のアプリのWEB版によった。私自身の2022年の走行と脱水、気象条件の関係から推定した式に基づいて計算している。
ペルソナの設定
本件に合わせて言い換えると、「どのような条件の人が、どのようなペースで走行するか」を設定する。設定内容は以下のとおり。なお、荷物の重量はないものとした。
体重:65㎏
走行ペース:時速10㎞→1㎞あたり6分00秒のペースになる。
1時間後に10㎞地点、2時間後に20㎞地点、3時間後に30㎞地点、4時間後に20㎞地点を通過、4時間13分10秒後にゴール
体重は以下のサイトから、標準的な市民ランナーの体重を想定した。
(一般人平均70㎏、市民ランナーはそれより5~6㎏少ない
走行ペースは、計算しやすい数字にした。8時20分スタートとなると、1時間後の9時20分で10㎞、2時間後の10時20分で20㎞…のイメージになる。
天候(WBGT)の予測
脱水量に関連が高い気象指標はWBGT(暑さ指数)である。WBGTは、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい以下の3つを取り入れたものである。
湿度 日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境 気温
元来は黒球温度、湿球温度、気温から計算するが、以下の近似式(※2)でも推定することが可能である。
0.735×Ta+0.0374×RH+0.00292×Ta×RH+7.619×SR-4.557×SR^2-0.00572×WS-4.064
Ta:気温(℃)、RH:相対湿度(%)、SR:全天日射量(kW/m2)、
WS:平均風速(m/s)
※2:式の出所は以下の通り。なお、この式は、環境省「熱中症予防情報サイト」上でのWBGT予測にも用いられている。
小野雅司ら(2014):通常観測気象要素を用いたWBGTの推定.日生気誌,50(4),147-157. doi:10.11227/seikisho.50.147
本件では、以下の流れで推定した。
・スタート/ゴール、10㎞、20㎞、30㎞、40㎞地点の緯度・経度を入手
・気象データのオープンソース「OPEN-METEO」サイトから、上記各地点における到達時刻に近い気象データの予測値を取得。なお、同サイトでは、緯度・経度を入力すれば、当該地点の気象データの予測値(最大16日先まで)を1時間刻みで入手することが可能。ただし、●時00分のWBGTしかデータがない。
・これより、上記各地点の入手データ値は、以下の時間帯のものになる。地点ごとに2時点のWBGTを求め、早い時間のもの:遅い時間のもの=2:1の比率にしたものを各地点の●時20分時点のWBGTとする。
スタート/ゴール-8:00、9:00のWBGTから8:20のWBGTを算出
10㎞-9:00、10:00のWBGTから9:20のWBGTを算出
20㎞-10:00、11:00のWBGTから10:20のWBGTを算出
30㎞-11:00、12:00のWBGTから11:20のWBGTを算出
40㎞-12:00、13:00のWBGTから12:20のWBGTを算出
いずれも、早い時間のWBGT:遅い時間のWBGT=2:1の加重平均で求める。
ゴール時点のWBGTは、計算が難しいうえに40㎞と近接するので省略する。
図示すると以下のようになる。
ここから推定したWBGTは、以下のようになった。なお、日本時間10月28日9:00ころの時点の予測値なので、開催までに今後数値は若干の変化がある。
スタート(8:20):8.8℃ 10㎞(9:20):9.9℃
20㎞(10:20):10.7℃ 30㎞(11:20):11.9℃
40㎞(12:20):12.2℃
平均:10.7℃
脱水量の予測
最初に設定したペルソナ、歩行/休憩時刻に応じた各区間/チェックポイントのWBGTをもとに、ペルソナ(体重65㎏)に関する脱水量を以下に推定した。なお、計算は私自身の走行/脱水履歴を踏まえたものである。
3.4ℓ
(幅を持たせて)
50%の確率で3.0~3.8ℓ
70%の確率で2.8~4.0ℓ
水分補給がない場合だと、1時間36分(16㎞)で脱水率が体重比2%となりパフォーマンスの低下が目立つようになる。
必要な水分補給量の予測
ゴール時点で体重比2%までの脱水を許容する前提に立つと、ゴールまでに必要な水分補給量は、
3.4ℓ - 65㎏ × 2% = 2.1ℓ となる。
この場合、差し引きの1.3ℓは、走行前後で補給しておく必要がある。1時間あたりの量は約500㎖となる。
11月半ばに入るうえ、これまで示した2大会の予測に比べてWBGT(暑さ指数)が低位になったため、脱水量や必要量は小さくなった。それでも、パフォーマンスの維持のためには、少なくとも2ℓ余りの量を走行中に補う必要が出てくる。これは、塩分やミネラルの補充のためにスポーツドリンクの利用が必要なレベルだ。その一方で、糖分の多いスポーツドリンクの過剰な摂取も、カロリー摂取の役割はあるとはいえ、歯の健康を考えれば避けた方がいいだろう。
【追記1】
2023年11月7日20:00時点のOPEN-METEOの天候予測に基づけば、脱水量および走行中に必要な水分補給量は以下のようになる。最初の予測値に比べWBGTが2.4℃上昇した分、全体で400㎖増加した。なお、福岡エリアは、11月13日の午後から気温が低下する見込みである。
・WBGT
スタート(8:20):9.9℃→12.9℃ 10㎞(9:20):10.7℃→13.1℃
20㎞(10:20):11.9℃→13.2℃ 30㎞(11:20):12.2℃→13.3℃
40㎞(12:20):20.3℃→12.9℃
平均:10.7℃→13.1℃
・脱水量
3.4ℓ→3.8ℓ
(幅を持たせて)
50%の確率で3.0~3.8ℓ→3.4~4.2ℓ
70%の確率で2.8~4.0ℓ→3.3~4.4ℓ
・走行中必要な水分補給量の予測
2.1ℓ→2.5ℓ
1時間あたりの量:498㎖→592㎖
・水分補給がない場合、14.3㎞(1時間25分46秒)でパフォーマンスが低下
【追記2】
2023年11月11日9:00時点のOPEN-METEOの天候予測に基づけば、脱水量および走行中に必要な水分補給量は以下のようになる。基本的に、最初の元記事に記載のものとほぼ同じ水準になった。
・WBGT
スタート(8:20):10.2℃ 10㎞(9:20):10.3℃
20㎞(10:20):10.1℃ 30㎞(11:20):10.7℃
40㎞(12:20):10.7℃
平均:10.4℃
・脱水量
3.4ℓ
(幅を持たせて)
50%の確率で3.0~3.8ℓ
70%の確率で2.8~4.0ℓ
・走行中必要な水分補給量の予測
2.1ℓ
1時間あたりの量:498㎖
・水分補給がない場合、16.3㎞(1時間37分31秒)でパフォーマンスが低下
以下の私のサイトもご覧ください!
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