#46 『古き良き剣道具を復興させたい』
ハッシュタグ
『#古き良き剣道具を復興させたい』
SNSなどでこのキーワードを耳に(目に)したことがある方がいるかもしれません。
このキーワードは3年ほど前に、私自身がインスタグラム上でハッシュタグのひとつとして作ったものです。
そして何人かの仲間や職人さん、剣道具店に「よかったら使ってください!」と紹介しました。いまも使い続けてくださっている方、あらたに使い始めた方もいて、嬉しく思っています。
幅広く解釈できるキーワードでもあるので、できたらもっと広まってほしいなと実は思案しています。
ただし、今日に至るまで、この言葉には当初からさまざまな意見が寄せられました。「古いものに拘らず、今開発されている新しいものに期待していくべき」「古き良きの定義ってなんだ」「剣道具の本質がわかっているのか」…などなど。
私は、最近の剣道具の売られ方に関して、すべて諸手を挙げて賛成はできないというのが本音です。
剣道具は身を守る防具であってほしいですし、昔の武将の鎧兜からの流れを汲むような意匠、堅牢さなど伝統的な魅力があり続けてほしいと思っています。
アスリートのスポーツギアのようなブランドイメージを押し出し、軽量かつ意のままに操れる「モデル」になっていくことには少し寂しさを覚えます。
…とはいうものの、戦後に剣道が再開されてからまだ1世紀も経っていません。「体を動かす」ということについては研究・開発・進化も進んでいますので、もしかすればこれからまだまだ変わっていく可能性がないとも言い切れないということも理解しています。
材料は昔ながらの天然のものを主とし、日本固有の伝統工芸の流れを汲んだものが最高であると思っていますが、これもまた、佳くも悪くも変容してきています。変容の中で今、私たちは日々剣道を続けていますので、新しいものと古くからある考え方がバランスよく織り交ざっていくことが良いのではないかと感じます。私も最近の流行りのモデルでも愛用しているものはあります。
「復興させたい」
古き良き剣道具を「復興」させたい―復活でも復元でもなく、復興としたことに、どうでもよいかもしれない「拘り」と「願い」を挟み込んでいます。少し触れてみます。
■復活とは、一度絶えたものが蘇ることを指します。
「昔の剣道具」が材料も作り方も含め、当時のままに作られ、使われるようになる…これは現実的ではないですね。
■復元とは、傷んだり壊れたものを元通りにすることを指します。
世にある傷んで放置されている剣道具を修繕することと同義です。これは大事なことですが、新しいものを生み出すこととは主旨が違ってきます。
そうそう。余談ですが部室や道場の隅から宝物のような剣道具が発掘されることがよくあります。皆さんも目を光らせてみてはいかがでしょうか(笑)
■「復興」であること
復興は、衰退したものが再び盛んになることです。そこには、かつて栄えたものを「現在あるものや技術を使って」盛んにするという意味合いがあります。
伝統は大切に。本来の姿を知り、そこに極力近づいていこうとするーー職人仕事には、知恵があり美があるものですが、残念ながらそれらは物理的にも少なくなってきてしまっています。
世の中の技術は日進月歩とはいえ、やはり古くから生き続ける本物には果てしない奥深さがあります。
どんな物事でも、奥深いところを知ることは楽しいことです。その楽しみを知らないまま、オリジナリティを求めて蛇足ともいえる改造をしているケースも少なくありません。
奥深いところにある魅力を知り、楽しもうとする。100%忠実にはムリでも、その良さを今の時代に再現しようとする。
その楽しみを「古き良き剣道具を復興させたい」というキーワードに込めています。
■防具か剣道具かの私見
全剣連では現在、剣道指導要領等で「剣道具」の呼称統一を図っています。
単に身を守るだけのものではなく、道具として表記しているわけです。
道具は、使い込めば使い込むほど体に馴染み使いやすくなっていき、その能力を発揮してくれるものです。また、直しながら永く使い続けることが可能だという特性を備えています。
最近では、使って消耗したら復旧はまず困難なほどにボロボロになってしまうものが少なくありません。今大量に出回っている安価な剣道具は、20年、30年の未来に姿を残しているでしょうか。
一方、ある職人さんは「身を守るためにも頑丈であり、長く使えるものでなくてはいけない。だからウチでは防具を作って売っているんだ」と誇りを持って仰いました。私はこの考えにも共感しており、やっぱり防具って呼びたいなと考えることがあります。
最近は「剣道具」と記述しないとお叱りを受けることもあるので表現には留意していますが…
道具としての防具を大切にしていきたいという思いもあり、いまだに剣道具か防具かで迷うことがあるので、<防具(剣道具)>と記述したり、注釈でカバーすることが多いです。
あとがき 道具はやっぱり使いたい
剣道具には、現代でいうところのグレードのようなものがあると言われています。
稽古用のもの、審査や試合、特別な立ち合いで使うもの…
それゆえに、とにかく打ちこみ打たれてもよいような作りのものもあれば、絢爛さゆえに打たせることを第一義としていないようなものもあります。
私はどれも好きではありますが、やっぱり道具と言うものは使ってこそだと考えています。良いものほど稽古で使い込みたいので、基本的には使うことを第一義に道具を選び、使い込めないものであったら所有しないこととしています。あくまでも私の場合、です。
そして、剣道具に関しては知らないことがたくさんあります。
これもnoteをはじめて間もないころに宣言していますが、間違っていることなどがありましたら、ぜひ優しく教えてください。お話を聞くのは楽しいです。
「古き良き剣道具を復興させたい」この言葉によって強い働きかけをするものではありません。古き良きものに興味を持ち、目を向け、手にしてみようと思うきっかけになってくれれば良いなと思います。
以上、私見を書き連ねたところで、今日はこの辺で。