ペーターハントケ「ドンファンー本人が語る」【ドンファンの系譜ー芸術家たちの様々なドンファン像】
「ドンファンは誘惑者ではなかった。彼はそれまで一人の女も誘惑したことがなかった。(略)反対に、ドンファンも一度も女から誘惑されたことはなかった。Don Juan war kein verführt .Er hatte noch nie eine Frau verführt .(略)Und umgekehrt awr Don Juan auch noch keinmal von einer Frauverführt worden.」(本文引用)
オーストリアの2019年ノーベル文学賞作家ペーターハントケの小説「ドンファン」は、パリ郊外で宿屋を営む語り手のもとに、ドンファンが突然転がり込み、一週間の間宿の庭で、その前の一週間の女遍歴について物語る話。
ペーターハントケが描くドンファンは、風采は際立ったところはない。だが、ありのままにいることを許す彼の「眼差し」によって、女たちは「自分がそれまで孤独だったこと、だが自分はこの孤独をこの場で終わらせるのだということ」を自覚し、彼の中に自分の唯一の、永遠の主人を見出すそうです。
誘惑しないドンファンとは新鮮な解釈ですし、誘惑しなくても「眼差し」だけでふらっと彼について行ってしまう女たちも凄いと思いました。まるで催眠術にかかったようですね。ペーターハントケのドンファン像ではオペラにするのは難しそうです。
作家によって色んなドンファン像があり、ドンファンの系譜をたどるのも、古典やクラシックを鑑賞する醍醐味の一つです。
◎ドンジョバンニ「地獄落ちのシーン」