ヘルダーリン著「ヒュペーリオン」と「運命の歌」
哲学者ニーチェとハイデガーがこよなく愛した、ヘルダーリンの書簡体小説「ヒュペーリオン」。
ギリシャの青年ヒュペーリオンは、オスマントルコ下にある祖国の窮迫にめざめ、いっぽうで古代世界の美を体現する女性ディオティ―マと運命的な出会いをし、激しい恋に落ちる。ヒュペーリオンは恋人を置いていったん開放戦争に身を投じるが志なかばで挫折し、戦友とも別れ、恋人ディオティーマのもとへ帰るときの場面。
「ヒュペーリオンは、岸壁で時を経つのも忘れて海を見ていた。気持ちを奮い立たせるためリュートを取り出して運命の歌を歌った。分別もなくしあわせだった少年時代に、覚えた歌だ。」
その歌詞に、ブラームスが曲をつけ混声合唱と管弦楽のための楽曲「運命の歌」ができた。
ブラームスの「運命の歌」は哀しくも美しい曲で愛聴しています。戦いに破れ、愛する恋人のもとに帰る、ヒュペーリオンの心情を思いながら、よろしければ聴いていただけると嬉しいです。
●Brahms: Schicksalslied ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Vocalconsort Berlin ∙ Andrés Orozco-Estrada
https://www.youtube.com/watch?v=HrXSzkdgljI
光をあびて天上の
やわらかな床をあゆむ浄福の霊よ。
神々の輝くそよ風は
あなたがたに軽やかにふれる、
聖なる弦をかなでる
乙女の指のように。
眠っている乳のみ子のように、運命もなく、
天上のものたちは息づく。
つつましい蕾に
きよらかにまもられ
永遠に花咲く
その霊のいぶき。
浄福の眼は静かな
永遠の明るさのうちに
輝く。
だが、われらのさだめ
いずこにも安らえぬこと。
消えてゆく、落ちてゆく、
悩みを負う人間は
ゆくえも知らず
刻々と。
岩から岩へ投げつけられる
水さながらに、
はてもなく闇の中へと。