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多和田葉子「百年の散歩」リヒャルト・ワーグナー通り(2017年発刊)

 

ドイツの首都ベルリンには偉人の名前を冠した通りがたくさんある。カント通り、カールマルクス通り、マルティンルター通り、ローザルクセンブルク通り・・。

 主人公の<わたし>はそんなベルリンの10の通りを散策して、道行く人とたわいもない世間話をしたり、お店に入ったり、夢想したりする。

 多和田さんの文章は、若者が書くようなポップな文体で、歯切れがよく、日本語とドイツ語の言葉遊びが随所に溢れていて、こちらまで、軽やかにベルリンの街を歩き回っている気持ちになる。<わたし>はベルリンのどこかにいる「あの人」を待ちながら、でもあの人は現れない「ほろ苦さ」も加味して。

 10の通りのお話のうち、特に「リヒャルトワーグナー通り」の物語に惹かれた。

 主人公の<わたし>はブリュンヒルデさんと「パパゲーノ」で食事をとったあと、オペラ座に向かう途中、タクシーから出てきたある中年の男性に目が向く。

 その容貌から「アルベリヒをやらせたら適任ではないかと思えてきた。正面玄関を避けて裏口から入ろうとしているのは、おそらくあの噴水が怖いからだろう。水が怖い男には、人には言えない過去がある。透明な水の柱の中で踊る三人の女性たちの名前は、あらなみ姫、さざなみ姫、ながれ姫。アルベリヒの心に火をつけようと計算づくめで踊っている。アルベリヒは初めのうちは戸惑っているが、・・恋をしてしまう。水を抱きしめようとしてびしょびしょになったアルベリヒが滑って倒れて地に叩き付けられる。水の姫たちはドレスの裾をまくりあげて仰向けに倒れたアルベリヒの背中におしっこをかけて逃げる。」

「酷い目にあったアルベリヒはそれ以来女性を見ると警戒するようになった」

「そんなある日、一人のセールスマンがアルベリヒの家を訪れた。愛することを永遠にやめれば弱みはなくなり、地球を支配できるだけの権力を手に入れることができる、というのである。黄金に輝く権力があれば女性などはいくらでも寄ってきますよ、サービス品みたいなものです。女性そのものを求めるのは、はっきり言って損です。アルベリヒは契約を結ぶことにした。」

「そんなアルベリヒの役を演じてみませんか、と(タクシーから出てきた中年の男性に)声をかけたらどんな反応をするだろう」

という具合に、<わたし>の夢想は永遠と続く。リヒャルトワーグナー通りを散策して、私もワーグナーをお題に連想ゲームをしたくなりました。好きなワーグナーネタでしたら、葉子さんといい勝負ができる・・かも♪


読書のBGMは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ「春」。大好きなヴァイオリニストであるイザベル・ファウストの演奏で。

https://www.youtube.com/watch?v=jz5vpRYEY8o

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