ブリテン歌曲集「イリュミナシオン」から8曲目「美しき存在」
Britten : Les illuminations
仏詩人ランボーの未完の散文詩「イリュミナシオン」は、ランボーがヴェルレーヌとロンドンやベルギーを旅し同棲生活をしたことが創作の源泉になっています。同性愛を歌いながら、幻想的で耽美的な世界を描いており、ブリテンが作曲したのもランボーの世界観になにか感じ入るところがあったのだと思います。
イリュミナシオンの主題の一つに「新しい肉体」があります。8曲目の歌詞「美しき存在」は、古い肉体が傷つき、解体され、その解体を通じて新しい肉体に生まれ変わるという詩です。キリスト教による肉体の貶め、性の抑圧を超えて、新たに再生する存在のアレゴリーと解釈されています。
とても音楽的で官能的な響きがする歌なので、惹きつけられ、好んで聴いています。もし良かったら聴いてみてください。
●美しき存在(訳文)
雪を背景に丈高いひとりの<美しき存在>。死の摩擦音とぐもった音楽の波紋が、この熱愛される肉体を、亡霊のように上昇させ、肥大させ、震わせる。
真紅と黒の傷口が、素晴らしい肉の中にぱっくりと開く。生命に固有の色が、作業台上の<幻>のまわりで黒ずみ、舞いながら、浮き出してくる。
やがて戦慄が高まり、とどろいて、さらにこうした効果の狂おしい味わいが、われわれの背後はるかかなたの世界がわれらの美しき母に投げかける、死を呼ぶ摩擦音と低く唸るような音楽とに包まれると、-彼女は後退し、すっくと立つ。おぉ!われらの骨は恋する新しい肉体をまとっている(中地義和訳)。
大好きなボストリッジの歌声で。
https://youtu.be/8XQGHOfIdYY?t=816 13分36秒から