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ユーザと開発者の想いを繋ぐ、Creative Research™ の実践(CRその3)

episode IIから続き)


Creative Research™の実装

Creative Research™がそれ以降のプロセスと趣が異なるのは、扱う情報が人のココロだからです。既出のデザイン思考家らも、このフェイズで活用可能な最適な方法を探索中でした。これを方法の原理(最適な手段は、現状と目的、そして対象とから決まる)に当てはめると、

方法の原理

図:最適な手段は、現状と目的、そして対象とから決まる(手段は最後)

現状:開発プロセスを起動するために必要な「意志」が定まらない状態で開発を始めている(episode Iで調査したもの)
目的:特にチームの意志をユーザの真のニーズを合わせて紡ぐことで、その後の反復的な試行錯誤プロセスが回るようにする(開発プロセスの関心の遷移から)
対象:開発プロジェクトチーム(既存大組織がスコープであるため)

に基づいて最適と思われる手段をとる、ということであり、それら手段をとっている状態がCreative Research™と呼べるのです。ここにResearchという言葉を入れたのは、ユーザサイドと、開発者サイド双方の意志の深い探索をし、意図を創り上げる機能という意味を込めたからです。

以前筆者らが複数のコンサルティングファームと、手段検討のためにプロセスのフェイズ事に使われる方法論を整理した図には、90種類近くのメソッド名がリストされています。その一番最初のフェイズに利用されるメソッドの中で、特にCreative Research™で使われる可能性があるもの2つほどあります。

Creative Research™で活用可能性のあるメソッド
1. 哲学シンキング
2. Question Burst
3. LEGO ® SERIOUS PLAY ®

ここで挙げたのはいずれもチームの意志を引き出して創り上げる方法論として有望と考えたものです。
ユーザに共感して潜在的なニーズを探る手法は、Depth Interviewとして確立しており、ここから一連のフレームワークを用いてターゲットの複数のペルソナ策定、ユーザ想いの深い理解へとつなぐことができます。
一方、チーム側の意図を引き出すという哲学シンキングとQuestion Burst法は極めて似ています。ここでは哲学シンキングに代表させて、以下LEGO ® SERIOUS PLAY ®ともども紹介します。

敢えて軸を設定せず多様な視点を自ら生み出す哲学シンキング

チームの意志を深堀りする前に、チームが前提にしようとしていることや、周囲の状況についての暗黙の理解について、深く考えてみることが重要です。昨今はいろいろな概念がバズワード化しており、その単語を使うだけで理解あるいは表現したつもりになっていることが多く見られます。哲学シンキングは、チームを対象に、哲学者らの行う対話手法をベースとした対話をファシリテートすることで、特にフォーカスした事柄についての「問いを問う」ことで、テーマについて理解を深めていく手法です。ソリューションを求める開発プロセス後半に入る前に、さまざまなキーとなる物事について、幅広い観点から理解を深めること、さらにそれをチームで実施することで、その後のプロジェクト運営で、意図、ベクトルを合わせやすく、判断軸がぶれにくくなります。(それで、筆者はこの手法のファシリテータ認定を取得しました)

哲学シンキングの場面
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哲学シンキングの効果

哲学シンキングによって視座を上げ、メタな見地から見直すことができる

Question Burstも問いを問うという点で非常に似た手法だと思います。Creative Research™の定義域で、ほぼ似た目的を持った方法論が生まれ始めているのは興味深いと思いました。時代のニーズの高まりを表しているのではないでしょうか。

誰一人犠牲にしない合意ビジョン形成 LEGO® SERIOUS PLAY®

こうして、チームの目線を一度引き上げておいてから、いよいよチームの意図をそろえていく際に使えるのがLEGO® SERIOUS PLAY®(以下LSP) です。

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LEGO ® SERIOUS PLAY ®により組織の合意モデルが構築される

SERIOUS PLAY®という方法論の研究がLEGO社と組んだことで進み、現在はLSPとして全世界に広がっています(LSPはレゴ社とは別の組織が管轄しています)。世界中に数千名のファシリテータがいますが、日本にはまだ500名程度です。

チームでのビジョンの合意モデルや戦略を創り上げるのに向いていますが、特徴的なのは、その際メンバー個々人の想いの何一つ犠牲にすることはない、という点です。よくある合意は、多数決によるものですがその場合、実は一部のメンバーの意志は犠牲になっています。
犠牲に基づくマネジメントはサステナブルではありません。LSPはそれを回避できる新しい手法だと言えるでしょう。創造的な作業の中で個々人の想いから合意点を作り出す深い理論に基づいた手法なのです。

ユーザへの共感は並行して実施、合意モデル形成の前までに情報を共有する

このように、価値提供側(開発者側)への深いアプローチ方法が手に入るようになってきています。ユーザへの深い共感と理解を獲得する方法論はすでにあり、デザイン思考プロセスの中でも利用されていますから、ようやくユーザへの共感と、チームの意志の深堀とを両輪としてバランスをとることができるようになりました。
Creative Research™を、そのバランスをとる領域と認識し、開発プロセスの早い段階から、まず自分たちを見つめることを忘れないようにしたいと思います。

すべては総合芸術

Creative Research™は、プロセス後段のマーケティングリサーチとは異なり、人のココロの深層に共感してインサイトを得る複雑なシステムを扱います。人のメンタルモデルは直接扱えないので、氷山モデルの深層にアプローチする地道な作業が必要となります。
利用する方法論は単純ではなく、複数の組み合わせになりアプローチ支援を行うファシリテータが、その能力をフルに使って成し遂げる総合芸術作業です。

氷山モデル


メンタルモデルは海中深く、直接は手が出せない

更に上流へ

時代の流れで開発プロセスが遡られ、上流へ上流へと機能要求が移り変わってきたことから、現在は、Creative Research™という早い段階の機能が必要であることがわかりました。
では、この流れに従えばCreative Research™より更に前にも機能が求められる日が来るのではいないでしょうか。
それがあるとすれば、もう開発プロセスの問題ではないでしょう。豊かに、軸や本当に実現したい想いを持って育った人材を育むための機能が必要とされ、それは「教育」と呼ばれるかもしれません。

フロー基本4

結局いつも教育だと言われてしまう

もしも教育にまでさかのぼると、見えてくる世界は再び一変します。ターゲットが開発プロセスだけではなくなるからです。
私たちは組織内においては、すでに教育と具体的なコンサルテーションとを組み合わせたスキームを試し始めており、よい効果を挙げてきています。しかし本当に必要とされる「教育」とは、小学校のころまでさかのぼって施されるものになるに違いなく、その前に育成が必要なのは、「教師」の方でしょう。

集合コンサルティング

グループコンサルティングの設計から実施・評価に至る3ステップ

豊かな感性の人材が、社会をけん引する時代を期待したいものです。

まとめ

既存組織が商品開発プロセスに必要とする機能が、関心のシフトに沿って変化してきていることを概観しました。

その結果、次に必要となる機能は、
 ・ユーザの潜在的要求を洞察し
 ・開発チームの意思を創り出し
 ・それらを統合して、商品開発プロセスを起動する
人のココロに迫る、総合芸術的な支援機能である、と考えられました。

それを本稿では「ユーザの心に共感し、開発者の想いに迫るCreative Research™」と呼称することにしました。

Creative Research™では多くの方法論をケースに合わせて組み合わせますが、現状では有望なものはまだ限定的です。COVID-19の環境下では、リモート環境下で人のココロを扱う必要性も生じ、そのまま実施が難しい方法論も出てきました。
開発プロセス支援の要件は、時代を経るごとにプロセス上流へさかのぼる傾向が続いていますが、Creative Research™の更に先は、社会全体で考える「教育」への期待が更に高まっていくのでしょう。
その段階ではもうプロセスの外挿からの検討はできません。全く新しい観点からの研究と実践が必要です。まずは哲学シンキングから始めますか。

以上。

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