創作大賞2024の応募作品からお勉強、あと少し感想
初めての小説「八葉の栞」を執筆し、創作2024に応募しました。
これまでに小説を書いたり、そのための勉強をしてきたわけではありません。ただ、なんとなく書けるだろうと思って始めてしまいました。結果として、書き切ることはできました。上手いか下手かは措いておいて、意欲作に仕上がったとは自負しています。
しかし、もっと表現のパターンや手法を知っていきたいと思いました。そこで、フォローやスキをしてくださった方々、そしてホーム画面のおすすめに出てきた方々の記事を読み耽りました。最低でも300記事は読みました。
今回は、創作大賞2024の応募作の中から、私が全話読んだ作品に絞って紹介します。個人的に勉強になった点や、僭越ながら感想を述べさせていただきます。
以下は私が読んだ順です。
あらすじ等はリンク先のページよりご確認ください。
ネタバレは極力避けますが、多少は含まれてしまうかもしれません。ご注意ください。
梶モード(Kaji-Mode) 様
『メニー・クラシック・モーメンツ ~ Many Classic Moments ~』
同性愛者の方々が登場する物語ですが、『「同棲の誘い」=「プロポーズ」されたようなもの』というのは目から鱗でした。
私も英国在住時、何名かの同性から求愛を受けたことがありますが、彼らは皆一様に「一緒に住もう」という誘い方をしていました。当時の私は、「ロンドンの家賃は高いから、これは割と有効な誘い文句なのかもしれない」くらいに思っていました。実際、そういう面もあったのかもしれません。しかし、「同棲の誘い」=「プロポーズ」と考えると、妙にしっくりくるところがあります。彼女がいると知っていながらも同棲の誘いをしてきてくれた彼らの意思の強さは、今になって見倣うところがあります。
本作の感想から脱線しました。すみません。
喫茶店「クロノス」にて、とある登場人物が、「ナポリタンに本場なんてありましたっけ…」と思いつつも、食べてみたら「これは間違いなく ” 本場 ” の味だった」となるところが本当に好きです。
この一連が描かれている第13話はとても切ないので、未読の方は是非ここまで読み進めていただきたいです。
こんゆじまじこ 様
エリンジウムの花ことば
20代の主人公と50代女性の恋愛物語です。
私は基本的に年上好きなので、葵さんに深く共感しました。
特に10〜20代の時分は同年代に物足りなさを感じ、エレガントな年上女性に惹かれたものです。
そんなエレガントな女性による、「ある意味、結婚の約束よりも、ずっとずっと強い絆で結ばれている」というセリフが大変印象深いです。物語後半でのことなので、ここでは経緯は割愛しますが、物語の締めと相まって、実に奥深い。私もこの読後感を出せるようになりたいと感じました。
しゃんしゃん 様
詩小説『引越物語』
今回拝読した作品の中で、もっとも先が読めない小説でした。
物凄い流動性。物語が、語り手が、とても生き生きとしています。
場所も時間も語りも目まぐるしく飛んでいくのですが、そのとき最も語られるべきことが、語るべき人の視点から描かれているので、すんなり頭に入ってきます。これがすごいです。
この型にはまらない自由さを是非とも習得したいのですが、多分私の性格的に難しそうです。しかし、一度はこのような小説を書いてみたいと強く思いました。
紡ちひろ 様
春、ふたりのソナタ
鎌倉を舞台にした恋愛小説。
勉強不足な私はこのタイプの恋愛作品は本作が初めてなのですが、今ではすっかりこの世界観にはまってしまいました。自分の感想として一言にまとめると、清らか。登場人物とその関係性、文章、物語…すべてが清純で美しい。もし書籍化されたら絶対買います。学びたいところは、もう全部ですね。
千景さんがすごくいい人なところも好きです。
藤花スイ 様
きっとここにしかない喫茶店で
文章が綺麗すぎます、めちゃくちゃ上手いです。
ストーリーも心温まる素敵な作品なのですが、個人的にはもう文章が好きすぎて、学ぶべきところだらけです。
最も印象に残ったのは、「それはミカが勇気を出さなければ聞くはずのなかった言葉だった。」という一文です。これは後半も後半なので前後については触れませんが、この一文を読んだときに、「なるほど!」と思わず声が出ました。表現の素晴らしさに感嘆しました。こういう文章を書けるようになりたいです。
水瀬 文祐 様
件の如し
探偵もの。なのですが、超人同士のバトルものという趣もあり、エンタメ性が大変高い作品です。タイトルがとてもかっこいい。
勉強になったのは何と言っても戦闘シーンの描写です。そりゃ、無理が通れば道理が引っ込むわ!と思うくらいの豪快さで、読み応え抜群でした。
私も学生の頃は売られた喧嘩を買ったりもしていましたが、そういうのって大抵は先手必勝なので、超人的な動きから為される攻防はとても新鮮で、かっこよかったです。描き方、見せ方が巧みで、大変勉強になります。
空川億里@ミステリ、SF、ショートショート 様
スーサイド・ツアー
自殺志願者が集まった島で連続殺人事件が起こる。
この設定と人物設定が魅力に溢れていて、こういう技法を覚えていきたいなと思いました。
作品の性質上、あまり細かいところを語るわけにもいかず歯がゆいのですが、1話1話を一気に読ませる力がある小説なので、上記設定に気になった方は是非ご一読ください!
朱雀京二 様
ロダン早乙女の事件簿 FIRST・CONTACT
心理学教授と助手によるミステリ作品。
自作をファンタジー小説部門に応募しているのにこういうのも何なのですが、私はミステリー作品が好きです。その中でも、本作は公正証書遺言やマイナンバーカードなど日常的な要素がキーとなっていて、さもありなんと思わせられる現実感が大変魅力的です。知らないことがたくさんあったので、読んでいるだけで勉強になりました。
私事も私事ですが、阿佐ヶ谷→飯田橋→難波の近くという順に引っ越して今に至る私としては、土地勘ある場所も多く出てきて、そういった意味でも読んでいて楽しかったです。
伊藤さんは所々でドキドキさせてくれます。
マナリ 様
カザン
読みやすくて、おもしろい。理想的な作品です。
作品そのものの感想とは違うのですが、文章のスタイルが私と同じタイプだったので、すごくほっとしました。
ここでいうスタイルとは、字下げの有無、感嘆符や疑問符のあとのスペースの有無、三点リーダーの数などのことです。
多くの応募作が、「字下げ有」、「感嘆符や疑問符のあとのスペースの有」、「三点リーダーはふたつ」だったのですが、私はその真逆のスタイルで書いています。
私見ですが、デジタル文章では字下げや記号後のスペースは不要だと考えています。Web上では改行で段落分けができるため(英文でいうBlock Style)、字下げなしでも読みやすさは保てると思うのです。
人それぞれで良し悪しや好き嫌いはあるし、明確なスタイルガイドがあるわけでもないようなので、全員同じではなくても全然問題はありません。ただ、自分があまりにも少数派のようだったので、さすがに合わせたほうが良いのかもしれないと、応募した後にちょっと思いました。なので、マナリ様のスタイルを拝見して、ほっとしたものです。
作品の話に戻すと、「ネットに意識を乗せることができる」というのは私も考えたことがある設定で、その設定をうまく描いた作品を見せていただいたなと、心震えました。
結城奏 様
紅茶の時間
障害を持った女性と、男性の恋愛物語。
かなり心に来る作品でした。
というのも、私もかつて似た症状があるパートナーがいたからです。もっとも、私は敦君と違って、ふられた方ですが。何をしようにも、何もできず。長いこと自分の無力に落ち込みました。
本作は表現がとても美しく、大変勉強になりました。
私は一昨年出張で北海道に行ったのですが、すごく良いところで、また行きたく思っています。そんな北海道への憧れを抱く心に最も響いたのは、「これからずっと、私の冬には雪が積もらないんだな。」という一文です。
読んだとき、じーんと来ました。物語的には、じーんと来るのはもう少し先のはずなんですが、私はここが一番来ました。こういった感傷を描けるようになりたいです。
なお、私はカフェに行ったとき、メニューにあれば、必ずフラットホワイトを頼みます。
水野莉日子 様
ただ、君に会いたい
夏々花さんの髪色が身近な人々と同じだったため、親しみを持って読み始めることができました。その髪色が物語の重要な要素となり、主人公の個性が巧みに物語に織り込まれている点が素晴らしいです。
想い合い、すれ違う。切なくも優しい恋愛の物語もとても素敵なのですが、この方もまた文章が美麗で惚れ惚れします。挙げれば枚挙に暇がないほど、自分的大ヒットの連続です。私の感性の深いところに染み入ります。
適切できれいな言葉選び、短い文章で構成された段落は、私が目指していたものでもあるので、まるでそのお手本を提示いただいたような作品でした。
本作を代表的するセリフは下記かと思います。
このセリフの意味がわかったとき、おお、なるほど!となります。
「明日は、空が綺麗ですね」
しかし、自分的には以下の5文が特に好きです。文章の全文ではなく一部ずつになっているものもあるのですが、この切り取られた部分だけでも、文章の素晴らしさが感じられますよね。是非、小説の全文を読んでいただきたいです。
無色に透けて夜色の傘の下
すごく暑かった夏の午後、電車を待つ間の一瞬のこと
足並みが揃う。細く伸びた二つの影が、同じ丈で夜に笑う
限りなく広がる濃い青。雲は途切れても空は続く
くれた優しさはなかなか記憶から消えてくれないから優しくない
さいごに
今回、上記の素晴らしい作品に触れ、各作者の独創性と表現力に深く感銘を受けました。
小説を書くって、おもしろいなとあらためて感じました。
今後も多くの作品を読み、学び続けていきたく思います。
最後に、(なんか偉そうで恐縮ですが)全ての作者様に心からの感謝と敬意を表します。