精神科病棟の闇①/帰れない、動けない、伝わらない、治らない。それでも死なせない。/身体合併症病棟にて。
東京八王子にある精神科滝山病院での患者虐待事件のニュースを知っているだろうか。NHKの特集番組にもなった。医療従事者も一般の人もそのニュースを知ってかなり衝撃を受けた人が多いと思う。8割が非常勤の看護師で構成された病棟で、映像では看護師からの暴言暴力が患者に向けて行われていた。あり得ない、という感想、あってはいけない、という問題意識が当然の感覚だと思う。仮に医療従事者で、かつ精神科での職務経験を持っている人でも、必ずしもその闇の部分に触れる機会があるとは限らない。自分も知らなかった。長期臥床…精神疾患患者が寝たきりの状態になり、最期の時を迎えるまでを過ごす病棟で勤務するまでは。
一般的な精神科のイメージがどんなものだろうか。自分が看護学生で実習を控えているくらいの頃は、暴れる患者をベッドに縛っているイメージや、逆に辺境の古い病院で虚にぶつぶつ独り言を呟き続けている患者がいるイメージを持っていたと思う。どちらも偏見で、実際とは異なるが、敢えて言うならそれは急性期病棟と慢性期閉鎖病棟を指したイメージである。精神疾患の医療における流れは、病状が悪化して、警察で保護され行政から入院となる措置入院や、本人の同意ではなく家族の同意で入院となる医療保護入院から急性期医療が始まる。3ヶ月まで急性期医療としての算定報酬が出る期間で、寛解すれば在宅や施設退院となり、外来通院や訪問看護導入による地域医療へと移行する。寛解せず、長期化すれば慢性期閉鎖病棟へと転棟となり、開放病棟へ移行する症例、寛解して退院を目指せる症例、長期化して入院期間が何十年にも及ぶ症例など分かれていく。そして、その慢性期閉鎖病棟で長期入院している患者も当然だが歳をとる。精神科の患者はおやつなど嗜好品の取り過ぎで糖尿病になる、喫煙率が高く呼吸器疾患になる、他身体疾患を合併していても治療の理解が得られないことから未治療のまま経過する、といった事情から加齢と関連して複数の内科疾患を抱えやすい特性がある。さらに精神科薬に関連した転倒(パーキンソニズム症候群や眠剤での鎮静作用など)からの骨折が加齢と関連して寝たきりになるケースが多発する。そうした結果として、寝たきり(長期臥床)+内科疾患合併+慢性的に精神症状が出現する患者となる。その場合、各疾患に応じたそれぞれの科に入院するのか?違う。主科である精神科病棟にて入院加療となる。自立した患者と寝たきり患者では行う看護や必要な病棟の機能が異なるため、管理運営する上で患者層を分けなければならない。