「LARPとは?」2023年最後の最新解説
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「LARPとは、一体どのようなものなのか?」2012年にLARPに出会い、その後11年間向き合ってきた私達にとっても、この質問は未だに正答を弾き出すことが難しい、一言では説明し得ない問いかけです。
なぜなら、今においても「LARP」という言葉が示す意味は世界の中でも日々更新され続けているという事実があるからです。
そのため、2023年の締めくくりを機会としまして、「2023年の今における、LARPとはなにか?」を記させていただきます。
※本記事は、「レイムーンLARP C103」に寄稿した文章に、加筆修正を加えて掲載しております。
1.LARPの基礎
ライブ・アクション・ロールプレイ(LARP、ラープ)は即興劇的、物語の共同創作とゲーム要素(ルール、克服するべき障害等)を組み合わせる手法を用いることで、私達が普段暮らす世界とは「異なる世界を体験できる」文化的活動です。
その実際は、企業におけるロールプレイングなどを通した研修等に似ている活動ですが、訓練や治療よりも物語の共同創作や体験に重点を置いている事が特徴です。参加者は「自分とは異なる存在」=「役(キャラクター)」を演じるとされますが、演劇等とは異なり、セリフなどの「決められた行動を必ずしなければならない」事があまりないのが特徴です(例外的に、参加者合意の上で演出の一環として定められたセリフや振る舞いを台本に従って演じる場合もあります)。キャラクターには様々な特徴(年齢、性別、種族等)、能力や動機が設定され、参加者はそれに基づいて状況に対して即興で行動し、ゲームのような克服可能な障害(謎解きや戦闘など)に直面し、その過程で物語を作成することを基盤としています。
2.要素が複雑・複合的に見える背景
ただし、歴史的に様々な人々がアプローチをする中で、LARPという文化は様々な要素を包み込み、概念として複雑化しました。これは、世界的に同時期多発的に類似のアプローチが試され始め、10年ぐらいをかけて「LARP」という言葉に統合された背景からくるものです。
しかしながら、LARPを形成する共通要素の一つは、シンプルに言い表すことができ、「実際に自分の精神・肉体を活用して仮想の出来事の中に没入していく『没入性(*1)』」。これがあることが、多くのLARPの活動に共通するものです。
*1(本記事においては、以降も『没入性』の意味としてはこれを基本とします)
この『没入性』の要素は多くの「これが楽しい」という類似のアプローチを包摂し、【「スキル」や「呪文」などを発動させ、その発動に従う、といった「ルール」の中でストーリーテリングを行う】事柄をLARPとしたり(日本では、「ストーリーLARP」と呼称)、【柔らかいスポンジを芯材にまとわせ、武器のようにして振り回して戦いを体験する】ことをLARPとしたり(日本では「コンバットLARPと呼称)、これらの2つの要素を組み合わせてLARPとすることなども起こりました。
また、『没入性』の高い体験を通して、「我が事」として体験する物事を捉えることの学習性に着目がなされ、教育的アプローチや社会問題への啓発、体験への芸術的アプローチなどが実験的に行われ、一言で「LARP」と呼称されたとしても、やってみれば全く別物であった。といった事が起こりえる状況になっています。
3.「LARP」≒「ごっこあそび」
筆者は、LARPは「全年齢に対応可能なごっこ遊びである」と考えています。幼児期のごっこ遊びを皆さんは今、想像し、それが幼稚な遊びである、と捉えることもあるでしょう。しかしながら、「全年齢の」という言葉には、わけがあります。
「遊びは学び」という言葉が、保育の現場などでも使われますが、これは保育教育の間だけに適合するものでしょうか? 筆者は、人間はすべての時期に、すべての体験をもって、人は学び続けることができるものであると考えています。
学びは、全年齢において、人間が積極的に得に行くことができる事柄である。ということです。
さて、皆さんにとっての「遊び」とは様々なイメージができるものであると思います。
ここでいう「遊び」とは「ごっこ遊び」のことですから「自分自身を仮りの立場に置き、仮りのシチュエーションで」行う「遊び」になります。
上記のことから、カイヨワにおける遊びの類型の4つ(アゴン・ミミクリ・アレア・イリンクス)のうち、LARPを構成する遊びの要素は「ミミクリ(真似・模倣を伴う遊び)」が大半を占めています。(戦闘シーンを中心としたLARPの場合、アゴン(競争性など)を帯びたり、ギミック要素の一つとしてアレア(運や偶発性)を用いたりすることはありますが、基盤となるのはミミクリです)
なお、「遊ぶ」ためには本人にとって安心して遊ぶことができる「安全な環境」が必要です。日常的な自分の立場や肉体・精神そのものが、用意された状況に対応することで危ぶまれるような状況では、十全に遊ぶことができません。LARPにおいては、時に反社会的な概念に対する挑戦的なテーマを扱う事がありますし、キャラクターとして反社会的な活動をしている人物を振る舞う場合もあります。そうした「キャラクターとしての振る舞い」が日常的な本人の人格と紐付けられていないことを、参加者全員が認識していることで、安心して「自分ではない誰かを空想し、立ち振る舞う」ことができます。
LARPとは「真似(ミミクリ)」という遊びの要素を通して、『没入性』を得て、体験的に経験することで充足感や実感を得て、自身の糧とする「学び」を得ることができる活動であり、「全年齢に対応可能なごっこ遊び」である所以(ゆえん)です。(もちろん、必要に応じて参加年齢や内容のフィルタリングは必要です)
4.娯楽?・教育?・芸術?・エンタメ?・ゲーム?
LARPは、『没入性』を用いて、経験をするごっこ遊びです。それを、娯楽であると捉えるのか、教育の機会と捉えるのか、エンタメの一部と捉えるのか、ゲームとして捉えるのか。これは、主催者が参加者に対して表層的に「期待してほしいこと」を表現し、参加者が『好き』なカテゴリーを選び、楽しみ方の文化的『棲み分け』をするための『呼称』であると言えます。(「コンバット」とか「ストーリー」とか「ホラー」や「ファンタジー」などもこれです)
LARPという文化は、様々なアプローチ・活動を包摂できるため、それぞれのLARP活動・文化を持つ人たちにとって、手法やルール、文化的な背景の違いによって、参加者が「これをしたかったわけじゃない」という不満を持つケースが多く発生しました。(なんなら、すでに存在しているカテゴリーにおいても「主催者が表示していたカテゴリーに今回のLARPは当てはまらないと思う!」という食い違いも起こるそうです)そうした食い違いは、今後も多く発生することが予測されます。
なぜなら、LARPというコンテンツは、ある程度参加者たちに対して「体験すること」の内容を「サプライズ」を伴わせることで増加させることを期待する場合があり、事前に体験できることのすべてを明らかにすることができないケースが多いからです。
これをトラブルにしないためには、主催者は「参加者が期待する体験性にあまり食い違いが出ないように説明をすること」ですし、参加者は「自分が体験して楽しかったLARPの特徴やスタイルを覚えておき、すべてのLARPと称されるものが同じではないことを前提にしておくこと」が大切になります。
「その日1日を充実したものにする」という積極的な姿勢が、主催者および参加者にあることで、より充実度は向上するのも、LARPの持つ特徴です。
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