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「ヤクザのゲームでしょ?」な貴方に知ってほしい、「大人の苦労」のドラマ――新しいゲームの旅:龍が如く8

NHKの「ドキュメント72時間」が好きです。
回によりますが、年齢、性別、職業など様々な人が登場し、その人生が垣間見えるものです(日本国内なので、さすがに日本人が多いけど)。
どんな人でも(小学生でも!)自分の山あり谷ありの人生がありますが、中年以上の年齢になると、大きな挫折や失敗や喪失などを、抱えたり踏み越えたりした、渋みのある語り口を聴けます。

ゲーム「龍が如く8」(以降「本作」)で、私は龍が如くシリーズを初めて遊びました。

(記事を公開した時点では、あと丸一日くらいはsteamで2割引になっています)

今までは、タイトルのとおり「ヤクザのゲームでしょ?俺と関係ねえわ」って思ってたんです。
遊ぶきっかけは、いかにもJRPGな佇まいに興味を引かれたことでしたが、実際に遊んでみると、

  • 現代の世相

  • 人生の後半から終わり際

  • 犯罪者の更生

といったような、「和製で」「メジャータイトルで」「現実に近い世界を舞台にした」ゲーム作品では珍しいテーマ――一言でまとめると「大人の苦労」――を取り上げている点が良いと思いました。冒頭に述べたような、渋みのある語り口が、作品内のキャラから聴けるのです。良いおっさんになってしまった私には、10代20代の若者が思い悩む物語が(これにはこれの良さがあるが)遠いものに感じられるようになってきていて、そこに本作の良さがスッと入ってきました。

本作の魅力は複数の切り口で語れるものですが、私は、自分が一番良いと思ったこの点を軸に、語ってみようと思います。


大人の苦労が垣間見える3つのポイント

多くあるポイントの中から3つ取り上げて紹介します。

やり直しのための手を差し伸べる男、春日一番

本作の最初のエピソードは、ハローワークの職員(!)をしている主人公・春日一番が、道でヤクザ崩れに絡まれるというものです。

前作で「ハマの英雄」になったらしいのだけど、なんて堅実な人生を歩んでいるのか…

自身も元ヤクザである一番は、「割の良い仕事を裏から斡旋してくれるんだろ?」と絡んでくるヤクザ崩れを一旦返り討ちにした上で、正式なルートでハローワークから求人させ、職を斡旋します。

これだけでも大したものですが、一番はその後、働きはじめたヤクザ崩れの職場を訪れ、様子を見て、差し入れを渡します。

店の万引きできる隙を調査して伝える仕事についたヤクザ崩れに

差し入れは資格本。資格を得て足場を固めろという事です。

このゲームの冒頭のイベントで、私は一番のことがすっかり気に入ってしまいました。「駄目な事は駄目だが、やり直すことはできる」と手を差し出し、助けた相手はちゃんと面倒を見る。これを1人1人やるのはすごく大変で地道な事なのに、それをやり果せる。バイタリティに溢れ、温かみがあります。
私がこれまで生きてきた中で、こういう事が大変だと実感する事はあったし、それだけのバイタリティを維持する事の難しさにも実感を持てていて、だからこそ、一番に強く惹きつけられたのだと思います。

実はこの直後、このヤクザ崩れは、再就職先が潰れてしまい、絶望に暮れたのち、ヤクザに戻ってしまいます。この「ままならなさ」も、私自身の体験と共鳴する部分があり、ぐっと来るところでした。

これだけを見たら、一番が完璧な人物に見えるかもしれませんが、スマホがうまく使えなかったり、色恋沙汰は不得手だったり、機転は利くけど物は知らない三枚目という感じで、そこがまた彼の「なんか助けたくなる感じ」という魅力に繋がってもいます。

完璧な人物はハニトラに引っかかって全裸で海岸に投げ出されたりしない

人は完成する事はない――浜子さんの悔いの話

本作は途中から、桐生一馬の横浜編と春日一番のハワイ編を交互に攻略する事になります。横浜編のサブストーリーで桐生さんが出会う一人が、浜子さんです。

攻略当時にスクショ撮ってなかったので、ドンドコ島にて

浜子さんは(この単語が直接は出てこないけど)いわゆる「ちょんの間」の経営者で、身寄りなく横浜異人町に流れ着いた女性に稼ぐ手段を与えていました。
見た目通りのロックな人物で、誰と話すにもカラッと気持ちの良い態度を取ります。

しかし、彼女は、そのサブストーリーで、桐生さんに自分の「悔い」を吐露します。
概要だけ言うと、むかし誤解がもとで、人にきつい言い方をしてしまったが、その事についてまだ謝れていない、というものです。

異人町の古株で器の大きい人物に見える浜子さんのような人でも、そういう小さいことを悩んでひきずっている。人生を長くやってきて、円熟してくると思いきや、そこに欠損が見える。なんとも生々しいエピソードですが、私はそこに本作の「人間は誰しも、いくつになっても欠けた部分があるものだ」というメッセージを読み取ったのです。

本作の主人公は、春日一番が46歳、桐生一馬が55歳で、彼らの同世代以上の登場人物がとても多く登場します。それぞれが魅力的なキャラですが、それは「年齢なりのできた人物だから」ではなく、「一見すると年齢なりにできた人物が、実はそれぞれに後悔や苦悩を抱えて生きている、その不完全さが愛おしいと感じるから」だと思います。ハワイ編は一番のヒロイックな面やコミカルな面が強調されがちなので、横浜編を始めて最初に出会った浜子さんの話で一転して渋みがある内容になり、本作の魅力が更に見えてきたのでした。

横浜編のバーのマスターは、かつて桐生さんとは兄弟のような仲で、
互いに素性を偽って生きている状態で再会する
ホームレス村の村長(撮影場所:ドンドコ島)が村長を引き受けるまでの話も良い

犯罪の背景に目を向ける

ハワイ編では、観光客狙いの詐欺の話が何度か登場します。一番自身が引っかかりますし、別の引っかかった人との話もあります。

そしてどの話も、「なぜその人が犯罪行為を行うようになったのか」という話に続いています。

観光客にハニトラを仕掛けていた女性は、他の仕事ができるような教育を受けていなかった

そこには、現代社会の世相が映し出されます。過去の不幸や、生まれながらに不遇な環境に置かれた事、そういう人をすくい上げる事が十分にできていない社会、そういった物が見えてくるのです。

これだけやってシリアスになりすぎない理由

映画ならドキュメンタリーか社会派ドラマといった感じのストーリーテリングで、これだけだとシリアス一辺倒のゲームになってしまいそうなところですが、本作はそうなっていません。

その理由は、ストーリーだけを見ても大筋はヒーローの物語だし、これだけの物語を受け止める器を持った主人公である春日一番のキャラ造形が大きく寄与している事がわかります。

また、本作は、意識的にJRPGのパロディを多く入れてあって、たとえば道を歩いて出てきた敵を倒してレベルを上げる、ダンジョンを探索して拾った武器が強い、みたいな、JRPGなら普通である楽しみがあります。

ていうかレベル1からなの??っていう

魔法もないしモンスターや悪魔もいない世界では違和感がありそうなものですが、本作は「最初に大きい嘘をついて、細かいツッコミを入れる気にならない雰囲気に持っていく」事をしていて、これがストーリーのシリアスさとバカバカしさ、ゲームらしい遊びを共存させているように思います。

大きい嘘というのは、一番のドラクエ脳です。バットを勇者の剣と呼んでいたり、友人たちとヤクザの事務所に殴り込む時には「パーティー結成だ!」とか言い出します。戦闘でも、「一番は戦闘に入ると敵がモンスターに見える」という設定で、敵のチンピラをモンスター(さすがに人型ではあるので、怪人?)の見た目にしていて、見た目のインパクトもばっちりです。

撮影できてなかったのでyoutubeのトレーラーより

このへんも、春日一番という主人公が、本シリーズの主人公として設定を良く練られたキャラクターであることがわかり、感心してしまいます。

おしまい

本作が、私のようなシリーズ未プレイの人の目にも留まると良いなと思い、語ってみました。気になった人は(今の値段だとなーって人は来年にでも)手に取ってみてくれると嬉しいです。

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