主観的評価の重要性について
主観的評価
新規の患者さんを担当するとき、一番初めに行うのが主観的評価、問診です。問診をする目的には:
➀症状の原因となる組織・構造に関する予測を立てる。
➁痛みのメカニズムを理解する。
➂患者さんの症状の重症度やIrritabilityを把握する。
➃客観的評価(身体的評価)の計画を立てる。
といったことが考えられます。
前回の記事で書いたように、同じ診断名でも患者さん個人が持っている症状はそれぞれ違います。痛みが10/10の強さの方もいれば、一度評価中に痛みがでれば数分間その痛みが持続してしまう方もいます。そのような場合、私達は客観的評価を始める前に評価の量や方法を調整しなければなりません。その判断の基準を立てるために、主観的評価はとても重要になります。
➀原因組織や痛みのメカニズムに関する予測を立てる
患者さんが持っている症状がどこから生じているのかを明らかにするためには、その症状がどの様な範囲で広がっているのかということや、どの様な動作で生じるのかを把握しなければなりません。
例えば肩関節周囲から肘付近まで症状が広がっているような時に、症状の原因は肩関節、頚椎などの部位や胸郭出口症候群の様に鎖骨周囲や前胸部の問題が関与している可能性があります。肩関節が原因であれば肩の動作が症状の出現に関与してくるでしょうし、頚椎が原因であれば頚部の動きや特定の姿勢が影響してきます。
この様にどの様な動作で症状が出るかを事前に理解しておけば、客観的評価(身体検査)で行うべき項目も絞ることができます。
➁痛みのメカニズムを理解する
特定の組織に対する刺激に対して、末梢の自由神経終末などが防御的に反応して生じる痛みを、侵害受容性疼痛と呼びます。これには炎症性の反応を伴うことがありますが、炎症が治まったり、組織にかかる刺激や機械的なストレスがなくなれば痛みは感じなくなります。しかし、人間の痛みの感じ方には情動や心理的な側面が関与することがあり、組織にかかる刺激を取り除くだけでは問題が解決しないことも多々あります。社会的な情報も重要になります。その為、患者さんが訴えている痛みについて、刺激と痛みの反応に一貫性があるのか、何か抱えている心理的な側面がないのかを把握する必要があります。
痛みのメカニズムや痛みのタイプに関しては今後のnoteで詳しく書きたいと思います。
➂患者さんの症状のIrritabilityを把握する
理学療法士として患者さんのリハビリに携わる時に気を付けないといけないことは、リスク管理です。運動器疾患の患者さんに関して転倒や意識消失などの危険性はあまり高くないと思います(でも十分に気を付けないとダメですよ!!)。
主観的評価の際に把握していく必要のあるリスクに関しては、検査や治療中に患者さんの痛みが増加しないかどうかということです。この際に重要となるのがIrritability(イリタビリティ:敏感度合)という概念です。これは大まかに、どの位患者さんの症状が出やすいもので、治まるまで時間がかかるものかということ示しています。
例えば患者さんが肩を30°挙上しただけで痛みが10分続くようであればIrritabilityは高いですし、投球動作を50球行った際に痛みが生じるものの、2,3秒で治まるのであればIrritabilityは低いと判断できます。Irritabilityが高い場合、検査や治療で動かす量や範囲に気を付けなければなりませんし、そうしないとリハビリ後に痛みが長時間残存し、治療前よりも悪化させてしまう可能性が高くなります。
この様なことが起きないように、主観的評価の段階で痛みの状態を把握し、検査の量を制限するべきかを把握していきます。
痛みの強さに関しては他に重症度(Severity)や痛みの性質(Nature)などがあり、これらの頭文字を合わせてSINと呼んでいます。SINについても今後の記事で詳しく書いていきたいと思います。
➃客観的評価(身体的評価)の計画を立てる
おそらくここまでで説明してきた上記3つの項目全てがこの➃に活かされると思います。疾患名だけで行うべき検査や介入方法は決まりません。患者さんの症状や特徴に合わせたリハビリを実施していくために、どこから症状が出てくるのかを把握する必要がありますし、痛みのメカニズムの中に心理的やその他の環境的な側面が影響していないかを考慮する必要があります。また、実施したい検査や介入方法が全て行えるのかを把握するためにIrritabilityを判断する必要があります。
これらを元に必要な客観的評価を計画して実行していきます。客観的評価の結果によって原因組織に関する仮説は肯定されるかもしれませんし、否定されるかもしれません。否定された場合に更に細かく原因を考察し、原因組織に関する仮説を修正していきます。
この様に主観的評価の必要事項を書いてきましたけれども、実際にこれら円滑を行っていくには、知識や実践、経験が必要です。良好な問診であればあるほど、たくさんの情報が得られますし、その分患者さんからの信頼も得ることができます。今後のnoteでこの過程がわかりやすくなるように、ケース紹介も行っていきたいと思います。
次回は主観的評価の際に行うべき項目について説明していきます。
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