見出し画像

詩「深海無線」

 つう、つつう、つう。 

 ハロー、ハロー。
 こちら、しがない人間もどき。
 聞こえますか。
 僕はいま、成層圏二万マイル、
 酸素と窒素の、海底にいます。

 つうつ、つう、つう。

  辺りはいちめん、夜のいろ。
 タイヤの砂利を踏む音が、いたずらに鼓動を早め、
 粘ついた吐息が戸惑いがちに、空へと昇る。  
 ええ、ここは、地獄です。 
 風も光も届かない、地獄の底でございます。 

 つう、つつう、つう。ざあ。 

 陸地で溺れるのは慣れていて、
 今日も、しずしず背中を丸め、 
 早く終われと、願うのです。
 まことにここは、地獄なのでございます。  
 何もかも、叶いはしない場所なのです。 

 僕の望みは、ことごとく、
 真砂のごとく、指の間から落ちていく。
 後は細かな、傷ばかりのコバルト、 
 凍るような、指先に露、 
 暗闇に咲く、秋水仙コルチカム

 つう、つ、つつ、つう。つう。 

 悠久に続くフィードバック・ノイズ、
 爪先を掠めて、壊れた、シュノーケル。
 隠田鮫おんでんざめの、静かな永久とこしえ、 
 えその奥歯が、真暗に光る。
 そう、僕は、孤独なたたかいというやつを、やってるんだ。

 夜明けに伸びる、一泡、一泡。 
 朝に枯らされ、海に干上がり、 
 幸福しあわせこそが、一夜の泥船。 
 ハロー、ハロー。 
 僕は、どうしようもなく、生きていました。  

 痛、痛、痛。 

 ハロー、ハロー。 
 聞こえますか。

-----------------------------
 10月に開催された、地方の朗読会に出て読ませていただきました。
 今まではpixivの方に上げていたのですが、これから実験的にnoteの方にも上げていきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?