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詩「喘鳴」

 午前二時、息苦しさに目が覚める。
 月明かりで満たされた、青い青い夜、
 大好きな音楽が脳を焼き焦がして、
 美しい思い出だけを狂ったように再生し続けるせいで、
 僕の喉はくしゃくしゃに、
 丸めた紙屑を飲み込んだみたいに、ざらついて、痛む。
 痛む。

 白い錠剤を、生温かい、水道水で、飲み下す。頭が痛い。頭が、重い。僕はいつからこんな人間になってしまったのだろうか。そう思い起こそうとしても、喉が痞えて拙い思想は夜の闇に曖昧に溶けていく。
 赤黒い叫びに塗れた手が胸を押し潰そうと鎌首を擡げて蹂躙された僕は地上に溺死しかかって、悲哀に喘ぐ、安寧の、夜。息ができない、息ができない、そう弱音を吐きそうになるけれど、僕の生が、僕が今ここに存在しているということそのものが、ただ自分がどうしようもない甘ったれだということの証明に他ならないことに気づいてしまった僕は。欠陥品に、他ならない。
 そんなことない、君は、良い子だ、恵まれている? 良い子だ、良い子だ、僕が、良い子だって?
 泡立つ皮膚の熱さも知らないで、どうして、そんなことが言えるの。

 階段に寝転んで、目の前でチカチカ光る赤、黄、緑のサイケデリックを堪能する。これが、これだけが、酸欠の世界の中で色彩を湛えていた。
 僕はいつしか、泣いていた。ここには誰もいないから、僕の息が止まっても、何の支障もないはずで、それがなにより嬉しいと、僕は極彩色の星空の中で泣いた。
 理解、不能。理解不能?
 は、はは。把握。把握。贔屓目に見ても、おひいさまにはほど遠い。
 息を吐き出す。息を吐き出す。ひい、ひい、ひい、ふう、みいと、柊数え、ヒューマノイドはハイヒール、履いて母の歯かっ、かっ、吐き出す。瀕死で卑屈の、風鈴、風雨、ハートは熱いか? ヒーローのPRは、ヒューマンエラーの、ピーコックグリーンに、かき消されて、弾け飛ぶ箔付きのヒューズ。カフスボタンの輝きは、ハードボイルド気取って、口づけを、交わす。悲喜こもごもの、キスの風味は、日向夏の、冷ややかな、香り。
 ひゅうう、ひゅー。ひぃ。はぁ、はぁ。
 僕は、どうして、まだ生きているの。

 涙の甘さに辟易しながら、僕は呼吸を整える。
 少し薬の効いた頃、泣き疲れた僕は、夜に寝かしつけられる。
 どうか、二度と、目が覚めませんように。
 祈りながら、眠りに沈む。

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 これも前記事同様、10月に開催された、地方の朗読会に出て読ませていただいたものです。
 そのうち録音してYouTubeに上げたい。


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