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社員戦隊ホウセキ V/第115話;苛怨戦士、爆誕

前回


 六月四日の金曜日、新たなゾウオ・呪詛ゾウオが出現し、四人の人物にその魔手が及んだ。
 社員戦隊はすぐに出動し、無事に呪詛ゾウオを撃破したが…。

 しかし撃破した社員戦隊を待っていたのは、称賛ではなく罵声だった。呪詛ゾウオが呪ったのは、ゲジョーがSNSを使って集めた地球人が憎んでいた人たちだった。

 そんな彼らの身勝手な罵声に、十縷の怒りは頂点に達し、その時を待っていたかのように、上空には黒のイマージュエルが出現した。


「他の四人に用は無い。引っ込んでいろ」

 抑揚のない口調でそう言った運転手の手許には、大筒のような長い銃が現れていた。
    時雨たちがそれに気付いた時、もうその銃の引き金は引かれており、銃口からは黒紫の光弾が発射されていた。
    光弾は細かい無数の弾に分裂し、ホウセキレッドの弾丸と同様に不規則な軌跡を描きながら、時雨たち四人に向かっていく。
 時雨たち四人は咄嗟にホウセキディフェンダーを形成してこれを防御したが、威力は完全に殺し切れず、堪らず体勢を崩す。
    唯一弾に狙われなかった十縷は、砲手の方を見て直感した。

「ザイガ! お前かぁぁぁっ!!」

 運転手らしき男性が持っていた大筒は、まだ記憶に新しい。加えて上空に出現した黒のイマージュエル。運転手はザイガの擬態だということは、もはや火を見るよりも明らかだ。
    それに気付いた十縷は、怒りを剥き出しにして彼に突進していく。撃たれた仲間たちを気遣う素振りを微塵も見せずに。
     そんな彼の姿に、運転手に擬態していたザイガは鈴のような音を更に大きくする。

「いいぞ、赤の戦士。その憎しみ、我らが仲間に相応しい」

 運転手はネクタイピンを外して姿を揺がせ、そのまま走り出した。それこそ、一瞬で十縷の眼前まで迫る程の猛烈な速度で。
    十縷はその突進を受け、自分より大柄な彼に圧し掛かられる形で仰向けに倒れた。十縷を伏せさせた時、運転手の姿は黒い戦闘スーツのホウセキブラックに変わっていた。

「ザイガ……!? いけない、ジュールがやられる!」

 この展開を受け、十縷を救うべく真っ先に走り出したのは光里。次いで和都、伊禰、時雨も立ち上がって、十縷の方へと走り出す。走りながら彼らは変身しようとしていたが、その動作はすぐに止めさせられた。

「お主は今から苛怨かえん戦士せんしになるのだ」

 ブラックは呟きながら抵抗する十縷を押さえ込み、彼が左手首に付けたホウセキブレスを器用に外し、別のブレスレットに付け替えさせた。そのブレスレットは、ベルトが金で紫の宝石が備えられたもの。バスの中にあったエコバッグに入っていた物だ。
 それを付けさせられた時、十縷に異変が起きた。

「ぐわあああああああっ!!」

 ブレスレットは十縷に装着されると、備えた紫の宝石から粘り気のある鉄紺色の光を発し始め、すぐに十縷の体を包み込んだ。十縷は苦しむように絶叫し、ブラックはそんな彼の上から退く。
 駆け寄ろうとしていたホウセキVは思わず足を止め、その光景に見入る。一同の前で、十縷を包み込んだ鉄紺色の光は形を得ていく。まるでホウセキブレスが受信したイマージュエルの力が、ホウセキスーツに変わっていくのと同様に。

「嘘でしょ……。何なの、これは……?」

 光里は落胆し、目に涙を浮かべて両膝を折る。他の三人もそこまでではないものの、驚愕の余り動けなくなっていた。

 震撼する四人の前で、新しいスーツを纏った十縷はゆっくりと立ち上がった。

 相変わらず黒が基調だが、モチーフはリクルートスーツではなく詰襟の軍服に近い。また赤い部分はバイザーだけで、その形状もホウセキレッドのものとは明確に異なっている。
    額には、マーキースブリリアントカットを施された深い紫色の宝石が、艶の無い銀で縁取られて横向きに備えられている。
    また、銀色の装甲を備えた胸板には、ペアシェイプブリリアントカットを施された深い紫の宝石が樹氷を模した金細工で縁取られて斜め向きに備えられている。
    和都と時雨には見覚えのあるものだった。

「即売会のアレキサンドライトのブローチが……」

 和都と時雨の声が重なった。
 そう、額の装飾は十縷がデザインしたブローチのもので、胸の装飾は和都がデザインしたブローチのもの。これは、十縷の深層心理が反映されたことを物語っていた。残念ながら、十縷はニクシムが創った装具に共鳴してしまったらしい。
 ところでアレキサンドライトを思わせるその宝石は、明所にも関わらず深い紫色なのが不気味だ。本来のアレキサンドライトは暗所でこの色を呈し、明所では透き通った青緑色を呈するのだが。

「んで、腹のベルトは前に俺がデザインした、ペアリングになるネックレスか……」

 和都はそのことにも気付いた。以前に十縷がシンゴウキングの発想を得る切欠になった、和都がデザインしたネックレスのデザインが、ベルトになっていることにも。

「さあ、苛怨戦士よ。憎しみのままに暴れろ」

 苛怨戦士の姿となった十縷に、ザイガが呼び掛ける。すると苛怨戦士は吼えた。十縷の声で。呪いの四人に怒って空振を発生させた時と、全く同じ声色で。
    その声量は猛烈で、一帯を揺るがそうとする程だった。


 十縷が謎のブレスを装着させられ、新たなスーツを纏わされた。この展開は現地の仲間たちだけでなく、寿得神社の愛作とリヨモも震撼させていた。

「あれはどういうことですか? まさかジュールさんは、ニクシムの戦士に…?」

 リヨモは激しく鉄を叩くような音を鳴らして狼狽する。愛作はリヨモよりは平静に近いが、決して落ち着いてはいない。

(これは何なんだ? あのブレスレットは一体?)

 驚く二人の脳裏には、ひたすら嫌な想像が過る。二人はそれを必死に否定しつつ、ティアラが投影する映像を、固唾を呑んで見守った。


 この光景は、勿論ニクシム陣営も確認していた。現地ではゲジョーがスマホで撮影した映像が、ニクシム神の前の祭壇へと送信される。それを見て、スケイリーは大笑いしていた。

「やっぱりそうだ! あいつは憎心力の使い手だったんだ!」

 スケイリーは嬉しそうだ。彼はザイガの作戦に同行した時、激怒した十縷に強い憎心力を感じた。帰還した後に語っていた【収穫】がまさにこれで、あの時に語った企みはこの憎心力を利用しようというものだったのだ。

「かなり根深い憎しみじゃな。あ奴、ニクシム神に魅入られておるぞ」

 スケイリーの隣で、マダムも声を上ずらす。そのマダムの左手首には、十縷が装着させられた物と同型のブレスレットが装着されていた。そしてこのブレスレットからも、鉄紺色をした粘り気のある光が湧き出ている。強化されたニクシム神が放つ光と同じだ。

「行くのじゃ、苛怨戦士よ! 其方はニクシムの一員じゃあっ!!」

 マダムが金切り声を上げると、同調するようにブレスの光は勢いを増した。


 遠い小惑星でマダムのブレスが光の勢いを増したのに共鳴して、苛怨戦士となった十縷のブレスからも同様の光が激しく湧いてきた。

「苛怨戦士よ。憎しみのままに暴れろ。生きる価値の無い者たちを葬れ」

 ブラックが鈴のような音を鳴らしたまま、隣から苛怨戦士となった十縷に呼び掛ける。すると苛怨戦士は、両腕を広げて空を仰ぎながらまた叫んだ。

「うおおおおおおお!! お前ら、ゾウオと同じ所に行けぇぇぇぇっ!!」

 十縷の声で叫んだ苛怨戦士は前を睨むと、左手を前方に翳した。その左手に装着されたブレスから発される鉄紺色をした粘り気のある光は、四つの光球の形を得た。その光球は苛怨戦士の叫びに従い、螺旋状の軌跡を描きつつそれぞれ別方向に飛んでいく。呪いの四人が伏せている場所に向かって……。

「いかん…! めろジュール!!」

 苛怨戦士の攻撃に、時雨たちは半ば反射的に動いた。彼らは打ち合わせていたかのように四方向に散り、それぞれ別の人物の前に立ってホウセキディフェンダーを形成した。彼らの防御は辛うじて間に合ったが、やはり威力は殺し切れなかった。光球はホウセキディフェンダーに当たって爆発し、その爆風で光里たちは吹っ飛ばされた。

「私、殺されるの? どうして私が虐められるの!? 悪い事してないのに…!」

 慄いて腰を抜かしたまま、金髪女がそう叫んだ。自分を守り、吹っ飛ばされた光里には全く目を向けず。
    彼女が叫ぶと、他の三人も同様に騒ぎ出した。勿論彼らも、自分たちを守って吹っ飛ばされた和都たちには無頓着だ。
    そして、この身勝手な叫びは苛怨戦士の攻撃を助長するものでしかないことに、彼らは未だ気付いていなかった。

「悪い事していない!? ふざけたことを言うな!? この世から消えろ!!」

 苛怨戦士が吼えると、その手許にはウラームのものと同型の鉈が出現した。その鉈を振り翳し、苛怨戦士は走り出した。最初に叫んだ金髪女の方へ。斬られると思い、金髪女はその場に座り込んだまま頭を抱える。

「駄目だ、ジュール! 止まれ!!」

 和都と伊禰と時雨が叫ぶが、それで苛怨戦士の足は止まらない。そして、彼らは金髪女から離れ過ぎており、物理的に彼を止めるのは間に合わない。その間に、苛怨戦士は金髪女との距離を詰める。
 それを眺めるブラックは鈴のような音を大きく鳴らし、撮影するゲジョーは思わず目を背ける。

 このまま金髪女は苛怨戦士の鉈で斬り伏せられる。この時、誰もがそう思っていたが…。

「お願い! 殺さないで!!」

 先程、金髪女を守った光里が立ち上がった。彼女は金髪女の正面に立ち、両手を広げて迫り来る苛怨戦士を見据えた。
    走り込んで来た苛怨戦士は、そのまま鉈を振り下ろす。刃の軌道の先は、光里の脳天に繋がっていた。


次回へ続く!

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