前回
気付けば五月も中旬を過ぎ、十七日の月曜日。
この日から三日間、新杜宝飾では健康診断が行われていた。場所は本社ビル横の催事場にて開催され、本社勤務の者や直営店勤務の者が対象だ。
健診を受ける側は指定された時間に催事所に行くだけだが、検査する側は次から次へとやって来る社員に対応しなければならない。
「姐さん、お疲れ様です。この三日間、本当に大変ですね」
トリに当たる内科検診は、新杜宝飾直属の産業医である伊禰が毎年担当している。催事場の二階の一角に設けられた、白い布で四方を囲んだ特設ブースの中で、内科検診は行われる。
順番が回ってきた和都は、診察を受けた帰り際にそう言った。これに対して、伊禰は笑顔で返す。
「まだ初日の午前中ですから、元気ですわよ。それに、こうして社員一人一人と接することができるのが、この会社の良い所ですから」
辛いとか疲れたとか、言う気すらないようなその姿勢に、和都は自然と頭が下がる。
「姐さんには到底敵わないッスね」
和都がそう呟くと、伊禰もすかさず返す。
「何を仰いますか。体調不良も来さず、一年足らずでここまで体格を変えた貴方が。これだけ効率的に努力できる人は、他にいらっしゃいません。凄いことですわよ。ただ、本当に無理はなさらず。そして、自分を追い込み過ぎず。それだけはお忘れなきよう」
伊禰は、和都が社員戦隊に選ばれて以来続けてきた努力を、純粋に称賛した。そして、心配することも忘れていなかった。この言葉を受けて、和都の口からは謝意の言葉が自然と漏れた。
このやり取りを経て、和都は内科検診のブースから出て行った。
伊禰は表を見て次の社員を確認し、不可解な笑みを浮かべた。
「さあ、次ですわね。丁度、午前の部の最後ですし。どう捌きましょうか……」
伊禰のこの独特な反応は何を意味するのか? 少し怖い感じがした。
それ以前に、そもそも何があったのか?
原因は今日から九日前、先々週の土曜日である五月八日まで遡る。
次回へ続く!