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ホウセキ V の解説6;花英拳について

    皆様方、はじめまして。

   伊達だて武義たけよしと申します。

    私のことはご存知ありませんよね? 簡単に自己紹介しますと、私は祐徳伊禰に花英拳かえいけんを教えた、伊禰の師匠です。


    本編ではまだ出番が無いので、先行登場になりますね。


    この度、作者から花英拳の説明をして欲しいと頼まれ、このコーナーを担当することになりました。

    以下の内容で話を進めますので、お付き合い頂けたらと思います。



1、花英拳の沿革


    時は戦国の乱世、名の知れない忍軍が編み出した殺法が始まりと言われております。この殺法は『武器を使わず、素手で人を殺す』というものでした。

    戦国の世が終わった後、この殺法はとある潘に仕える忍びたちに継承されていきました。しかし平和な世の中で、次第に殺法は武芸に変わっていきました。

    やがて潘制度が無くなると、かつての忍びたちは道場を開き、殺法の名も花英拳と変えました。

    このように、戦国の世で生まれた徒手空拳の殺法は一つの武道として、現代まで受け継がれているのです。


2、徒手空拳の理由


    元来、花英拳は殺法でした。殺すだけならば武器を使った方が良さそうだが、なぜ徒手空拳なのか?

    その理由には、開祖に当たる忍軍の長の思想が大いに影響しています。


いくさとはいえ、人をあやめる行為は悪事。その事実から目を背けないよう、殺した感触を強く体に刻む為、武器を使わずに素手で命を奪う』


    この思想は、殺法ではなくなった現代も、形を変えて引き継がれています。

    花英拳の道場では、型や所作を教える前に、必ず命の大切さと、暴力の醜さを解きます。それを理解していない人に武術を教えるのは、人殺しを生み出すのと同じですから。

    当然、他人への暴力は厳禁で、破った者は即破門としています。この点は他の武道も、大きくは違いませんね。


3、奥義について


   花英拳の基礎である、『突き』『蹴り』『受け』などを複合させて、実際の戦闘で応用できるよう考え出された技を総称して、『奥義』と呼んでいます。

 奥義と聞くと、その武術における唯一の最強技という印象をお持ちの方もいらっしゃるでしょうか。その方からすると、随分と奥義が多い印象があるでしょうが、花英拳の道場では実際の戦闘で用いられた技と、それから派生した技は基本的に教えないという方針ですので、奥義が多いのです。

    花英拳の奥義は人を殺せる技であり、高い身体能力が要求される技でもあります。

   ですから花英拳の心得を正しく理解し、かつ基本を高いレベルで習得している弟子にしか授けません。本来の奥義とは、そういうものですからね。
 私が奥義を授けた弟子は、伊禰だけです。

    奥義はその性質から、『防法』『打法』『極法』『投法』の四種類に大別されます。

    それではお待たせしました。

    具体的な奥義の技を紹介していきます。


3-1.防法ぼうほう


 相手の攻撃を防ぐ技です。三種類あります。


枝垂柳しだれやなぎ

 上体の力を抜いて、後退しながら上体を揺らして相手の攻撃を回避する技です。体の揺らし方が風に靡く柳を思わせる点から、このような名前が付けられました。
 複数の相手から攻撃された場合や、一対一で相手の手数が多い場合に有効です。
 相手が刃物を持っていることを想定した技ですので、受けずに避けます。そして、相手の隙を突いて逆襲に転じるのが、上手い使い方です。


矢竹やだけ

 筋肉に力を入れた状態で打撃を受け止め、適度に身を逸らして力を逃がす技です。筋肉の強さと軟らかさが同時に要求されます。
 相手が打撃武器による突きや、蹴りなどを繰り出した場合に用いられます。
 伊禰は今のところ(第51話現在)、この技を皆さんに披露していませんね。


さくら吹雪ふぶき

 花英拳の最高奥義です。私は伊禰に、この技だけは授けていません。
 こういうのはネタバレになるので、余り話さない方が良いですね。


3-2.打法だほう


 突きや蹴りを応用した技です。回転動作を加えたり、跳躍からの落下で威力を増したりする技が多いですね。一撃で人の命を絶ってしまうような技が多く、非情に危険です。
 手技と足技が五種類ずつ、計十種類の技があります。


日々にちにち

 手技です。相手の胴体に、連続で正拳突きを叩き込みます。手数に物を言わせて、相手に反撃の機会を与えません。仕留める技ではなく、この技で弱らせてから投法などに繋げる為の技です。
 何発も拳を繰り出す様を、毎日のように花を咲かせる日々花に喩えています。


おにあざみ

 手技です。掌底で相手の胸部を突きます。当たった箇所には針が突き刺さったような痛みが走るので、その痛みを薊の棘に喩えています。当たり所によっては、一撃で心臓の動きを止める威力があります。


とりかぶと

 手技です。相手の横を通り過ぎる際に、回転しながら相手の盆の壺に肘撃ちを叩き込みます。回転動作で威力を増した肘撃ちは髄まで届き、延髄の機能を狂わせて呼吸や心拍を乱します。場合によっては長時間苦しむこともあります。毒を盛られたように感じられるので、このような名前が付けられました。
 かなり有効な技で、派生技も存在します。


細葉ほそば鳥兜とりかぶと

 手技で、鳥兜の派生技です。相手の横を通り過ぎる際に、回転しながら相手の盆の壺を叩く動きは鳥兜と同じですが、肘撃ちではなく手刀を叩き込みます。
 自分より長身の相手に対して、斜め上に手を伸ばしながら繰り出すのが一般的です。
 鳥兜と同等のダメージを相手に与えることが可能です。


やま鳥兜とりかぶと

 手技で、鳥兜の派生技です。倒れ伏した相手に回転しながら倒れ込み、首に肘撃ちを叩き込みます。回転動作に加えて全体重を掛けるので、首を圧し折ることすら可能です。
 但し、自分の肘を壊す危険性がある上に、相手が倒れていないと使用できないので、使える場面が少ないです。
 伊禰は今のところ(第51話現在)、皆さんに披露していませんね。


野田のだ長藤ながふじ

 足技です。複雑なステップを踏みながら、左右の足から上段、中段、下段に代わる代わる蹴りを繰り出します。足払い、膝蹴り、横蹴りと、状況に応じて多彩な蹴りを交えます。これで仕留めるのではなく、他の技を繰り出す隙を作る為の技です。
 かなり難度の高い技ですが、相手の力量や立ち位置によっては、一度に複数の相手を攻撃できる、使い勝手の良い技です。
 本文では余り書いていませんが、多数のウラームと対する時に、伊禰は有効利用していますよ。


いばら

 足技です。跳び上がって一回転しながら足を真っ直ぐ前方に突き出し、相手の胸を蹴ります。蹴られた箇所には針が突き刺さったような痛みが走るので、その痛みを茨の棘に喩えています。一撃で相手の心臓を止めてしまう威力があります。
 ピカピカ軍団で、信号機の宝石ロボがこの技みたいな蹴りを出した時は、私も驚きました。


はま昼顔ひるがお

 足技です。寝そべるような体勢になって体を回転させ、円を描きながら相手の足を払います。仕留める為の打撃ではなく、相手を這わせて次の攻撃に繋げる為の技です。
 地を這うようなトリッキーな動きから、地面伝いに生える浜昼顔を連想して、この名がつけられました。
 超能力で物を飛ばすドロドロ怪物に、ピカピカ軍団の緑の子がこの技を真似したような蹴りを出してましたね。あの子は素養があります。


おち椿つばき

 足技です。跳躍して時計回りに回転して、右足の踵を斜め下に振り下ろして相手の側頭部を蹴ります。跳躍回転踵落としと言った方が楽でしょうか? 左足で繰り出す場合は、回転方向は逆になります。
 打法の中では、最高の威力を誇ると言われている技です。終わった椿の花は花が丸々落ちるので斬首を思わせると言われておりますが、この技もその意味から名づけられました。


から小豆あずき

  足技です。初動作は落椿と同じですが、時計回りに回転するなら右足の踵ではなく、左足の甲で相手の首を蹴ります。回転踵落としと見せ掛けた、1.5回転飛び回し蹴りです。蹴りを繰り出すタイミングは、落椿よりも少し遅いです。
 落椿を知っている相手に有効で、防御や回避のタイミングを外し、相手は逆襲に転じようとしたところを蹴られることになります。
 場合によっては、首を圧し折る程の威力を誇る技です。首が折れなくても、相手は長時間体の痺れに苦しむので、猛毒を含む唐小豆の名が付けられました。
 伊禰は今のところ(第51話現在)、皆さんに披露していませんね。


3-3.極法きょくほう


 関節を締め付ける技です。関節の動きを封じる他、骨を圧し折ったり、血流を止めたりすることを目的としています。三つの技があります。



はえ地獄じごく

 跳び上がって両足で相手の首を挟んだ後、自分の腰を捻ることで相手の首を折る技です。腰を捻らなくても、相手は普通のキックとヒールキックを左右から同時に食らうので、これだけでも絶大な衝撃を受けます。
 皆さんからすれば、初めて出会った花英拳の技ですね。動きが蠅地獄(蠅獲草)に似ているので、この名前が付きました。


玉蔦たまかずら

 相手の背後を取り、片手を相手の首に巻きつけて頸動脈の血流を止める技です。食らった相手は失神します。締める時間が長くなれば、相手を殺すことも可能と言われています。
 腕の絡ませ方を蔦に喩えて、名付けられました。


寄生木やどりぎ

 這わせた相手の背中に乗り、片腕を両手と両足で抱え込んで拘束する技です。下手に抵抗したら、相手の腕は折れます。花英拳には珍しく、殺す為でなく拘束することを目的とした技です。この技を掛ける為には、まず投法などで相手を這わせる必要があります。
 相手の腕にしがみつく点が、木の枝に生える宿木を思わせる点から、この名前が付けられました。


3-4.投法とうほう


 相手の体を投げ飛ばす技です。二種類しかありません。相手を伏せさせて、それから打法の山鳥兜や極法の寄生木などの技に繋げます。
 実は伊禰が苦手とするジャンルの技です。


梅花ばいか

 相手の腕を取り、体を捻りながら相手の足を払って転がす技です。相撲の取ったりと、柔道の体落としを組み合わせたような技です。
 投げられた相手の動きが、流水に靡く梅花藻を思わせる点から、この名前が付けられました。


踊子おどりこそう

 相手に組み付いた後、回転しながら足払いを掛け、更に空中に放り投げる技です。相手の体は豪快に飛びますが、意外にもそんなに腕力は必要としません。
 投げ飛ばす時の恰好が踊子草を思わせるので、この名前が付けられました。
 伊禰は今のところ(第51話現在)、皆さんに披露していませんね。


 質問などありましたら、お気軽にコメント欄へどうぞ。興味のある方は、道場で体験入会も行っていますが…皆様とは住む世界が本当に違うんでしたね。失礼しました。


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