ベトナムの地方で新卒が現地採用されるまで
今から2年半ほど前の就活記。ハノイでの生活に別れを告げ、地方都市にある夫の実家に引っ越して2年経った頃。コロナ禍を田舎で乗り越え、一応学位を取得。家から通える就職先を探し始める。
就活時の状況
・新卒
・外国語学部出身
・ベトナム人配偶者あり(学生結婚)
・夫の実家暮らし
地方で就職したかった理由
単純にベトナムの都会が好きでなかったから。ハノイでの生活は物質的な豊かさがあっても、精神的にどんどん摩耗していく。あくまで個人的な意見だが、数か月から1年くらい住むには刺激的でよいが、長いこと住めるところでない。
汚染された空気・バイクで埋め尽くされる道路・厚く立ち込める霧・快適と安全からほど遠いアパート・あまり美味しくない市場の食材・その土地の人間でないよそ者感…
私は田舎娘なので、こうしたハノイの「The 都会の生活」に限界を感じ、ベトナムコロナ禍前に夫の実家に引っ越しを決意。実家での暮らしは刺激とは真反対だったが、田んぼや山がすぐ近くにある環境が好きで、田舎ならでは素朴な生活が案外肌に馴染み、今に至る。
地方で就職するデメリット、難しい点
そんな(夫の)地元LOVEな私は現実をつきつけられる。現地採用を希望をする外国人が、地方の企業就職に際してぶち当たるだろう壁。
・選択肢が少ない
日系企業を含む外資系企業が少ない(もしくは全くない)。まず当たるべきは工業団地なのだが、ベトナム系・中華系・韓国系…と工業団地によって入っているメインの企業国籍が異なること、業種も製造業に限られてしまう。何より、辺鄙なところだと工業団地すらない。工業団地すらないところには、外資系の企業(かつ外国人を募集している企業)はまず進出していないと言っていいだろう。
自分の希望の仕事を探す⇒結果的に地方で就職 という現地採用の方はいると思うが、その逆で 就職場所(地方都市)決定⇒自分の希望の仕事を探す は至難の業である。
一方、ベトナムのローカル企業に就職することも1つの手だが、日本人の需要がある分野に限られる。当然だが、日本人じゃなくてもできる仕事はベトナム人で間に合うからだ。あと単純に外国人を雇用するのは色々と手続きがめんどくさい。需要があるとしたら日本語センターとか送り出し機関、IT関連、観光関連だろうか。
・現地採用を募集していない/募集を公に出していない
地方で就職すると決めたら、現地採用を募集している企業を探さなければならない。外資系企業では本社からの派遣者による構成が基本。こういう人材がどうしても必要だ!というなら、国内外のエージェントだったりを駆使して募集をかけているだろうが、「こういう人材がいたらいいな」とか「紹介されたら検討しようかな」レベルの需要だと、ネットにも載ってこない。完全にツテやご縁、何なら運に頼るしかなくなる。
・給与水準が低い
日本と同様、地方に行けば行くほど給与水準は下がる。日系企業を含む外資系企業に現地採用で就職しても同様。ローカルの日本語学校や送り出し機関に就職したら尚更である。他のベトナム人スタッフより給与は高いかもしれないが、日本円に換算すると少し切なくなるかもしれない。まあ現地水準で生活するには十分なので、あまり問題はないと言える。頻繁に帰国したいとか、大きな買い物をしたいとか、貯金をしたいと考えているなら、少し厳しいかも。
・職務経験・専門的な知識や経験が必須になる
基本的に現地採用の募集要項として、「職務経験3年以上」がついて回る。ベトナムで外国人が働くために必須の『労働許可証』の取得条件であるためだ。また、現地採用で求められのは、派遣者や駐在員でカバーできていない何かしらの能力や経験である。つまり、新卒や第二新卒の外国人は基本的にはベトナム全土で就業不可。
ただし、2021年頃、ベトナム人の配偶者がいて且つベトナムに在住している外国人は労働許可証がなくても就業できるよう法律が改正された。つまり新卒でもベトナム人と結婚していれば就職できるようになったのだが、専門性や社会人経験を補う能力やポテンシャルを企業に評価してもらわなければならない。
新卒地方就職はやはりハードルが高い
ここまで読んでいただいたらわかるのだが、新卒のぺーぺーの私の就活は超難題であった。自分が就職先に求めることは、家から通える範囲にあることと、自分の語学能力を生かせること。たったの2つ。新卒なので給与は特にこだわりなし。
住んでいるところから通える範囲にいくつか工業団地があった。ただ、中華&韓国企業の投資が多く、全体で見ても日系企業は10社もなく、ほとんど進出して長い小規模の工場。労働許可証免除だったり、雇用の待遇『家賃補助』が(実家住まいのため)いらないといった特典だけで新卒採用を検討するかといえば難しいであろう。
就職エージェントに何社も登録したが、地元での日本人求人自体見つからず、更に面談したキャリアコンサルタントの人には『就職は大変難しいと思います』と言われる始末である(予想はしていたが)。
企業が公にしていない人材需要があれば、そこに滑り込める可能性はあるが、地方故に普段から街中でも日本人自体見かけない、ハノイを離れて既に数年&コロナ禍後という状況。人脈ほぼ0…。厳しい現実を前に、やはり日本か大都市で職を探さないとだめか…と諦めかけていた矢先。
あれ…?就職できてしまった…
その人とは、卒業の1、2年前ほど前にFacebookでたまたま知り合っただけで、会ったこともなかった。コロナ禍直前にメッセージで二三言交わし、出身地が同じで、夫の実家から通える工業団地にある工場で働く予定である、ということだけ知っていた。
就活にどん詰まり、何からすればいいのかわからなかった私は、唯一夫の地元で知っていた日本人のその人に、藁にもすがる思いでメッセージ。
○○さんの会社の近くで、日本人の採用を検討しているところはないでしょうか?
と振られる覚悟で聞いたら、
うちの工場長に聞いてみてあげる。
と。
それから、履歴書を出し、面接。会社には家から通えるし、聞いた配属予定の部門でも語学力を生かせそうだな~と思ってたら、その場で『合格です。いつから来れる?』。後日、労働に契約書サイン、人事の人から入社確認の電話を受けとるまであっという間であった。
ご縁
正直、あんなに難しいとを覚悟していた就活があっさり終ってしまい拍子抜け。飛び込み営業的な感じで自分を売り込んだり、何社もの面接を受けて不合格…現地の就活大惨敗エピソードを繰り広げる予定だったかもしれないのに。
ちなみに、採用理由は現地の言語ができることと、コミュニケーションが取れることだった。
こうして、奇跡ともいえるご縁の力で就職した会社で今も働かせてもらっている。かつてFacebook上でしか知らなかったあの人は、直属ではないが上司となり、毎日仕事の依頼や相談で電話をするし、会えば談笑する仲である。
今振り返っても、偶然か必然か、夫の地元とのご縁を感じる。思えば、夫と知り合う前から、この土地に知らず知らずのうちに足を運んでいたので、やはり何かの因縁があるのかもしれない。
とりあえずはこのご縁を大切に、就職先で広がった人間関係と得られた学びを、また次のご縁に繋げていけたらな、と思う。