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ベトナムの地方公立病院で2回出産した私の超絶体験(笑い話)
☝前回、妊娠中のベトナムのどローカルな習慣慣習やあるあるを紹介したが、今回は出産時のエピソードをまとめてみる。
私は2回の出産を夫の地元の地方都市にある公立病院で経験した。どちらも帝王切開でなく、自然分娩である。日本での出産を体験したことがないので違いがあまりわからないが、とりあえず印象に残ったところをまとめる。
出産の様子も書いているので、苦手な方は閲覧注意…とだけ。
1.臨月に入って初めて産科病院に行く
妊娠発覚時から臨月まで、特に問題が無ければ診察所でエコー検査しかしない。診察所とは、病院勤めの産科医が勤務時間外に個人経営しているエコー診察所で、いうなればサービス業である。病院の診察時間外でも見てもらえる、待ち時間が短い、4Dエコー完備……病院に比べて断然融通が利く。ちなみに診療所によっては出生前診断の検体を取ってくれるし、経口中絶薬も処方してくれる。
だいたい37、38週に入ってから初めて大きな病院に出向き、個人情報の登録や初めて内診や血液・尿検査を行う。臨月になって申し込みをするので、病院に申し込む前に陣痛が来てしまった妊婦さんも見かけたが、これも致し方ない。日本のように母子手帳なんてものはないし、未受診妊婦も多いが、病院側も大抵のことで慌てないのがさすがだと思う。
2.ツテがある病院での出産が圧倒的に良い
私の住んでいる場所で出産を受けいれている病院は、産科小児科病院か省総合病院しかない。どちらも公立病院だ。産科だけでないが、ベトナムの公立病院では基本的にツテが最も重要である。ツテがあるとないとでは医者の対応に天と地の差がある。産科であれば、お産前に気を配ってくれる、分娩前・中に怒鳴られる頻度が減るOR優しく注意程度になる、産後も母子の状態を注意してみてくれるなど、ツテがあるだけで全く違う。ありがたいことに、どちらの病院にも知り合い(近所の人)が働いていたので、長女(初産)のときはもしものことを考えて産科小児科病院、次女のときは省総合病院での出産となった。
3.<洗礼1>分娩室は5人部屋、仕切りやカーテンなし
右も左もわからない初めての出産。医者に言われるまま陣痛も全くない状態で入院になる。入院が決まった直後、分娩室で胎動のモニターをするように言われ、分娩室の扉を開けた私をショッキングな光景が待ち受けていた。分娩室には5台ベッドがあり、そこに横たわりM字開脚している分娩待ちの産婦さんたち(半裸)のアソコが私のほうを向いていたのだ。無機質で覆うものが何もない分娩台、陣痛でもがき苦しむ産婦さんの声、他の人がつけているモニターの機械から大音量で聞こえる胎児の心拍、そして血…ビビりすぎて血の気が引いたのを覚えている。思わず病室に戻りたくなったが、私は大人しく空いていた分娩台に上った。全ての抵抗をやめることにしたのだ。『大変なところに来ちまった!』と思ったが、もはや引き返すことなどできなかった。両サイドを苦しむ産婦さんに挟まれながら、ボーっと天井を見ていた。
4.<洗礼2>分娩室に入るタイミングと分娩室での地獄
衝撃的な光景の分娩室でモニターが終わった私は、病室に戻る。そのときに、看護師から『どうしても痛くなって我慢できなくなったら分娩室に入ってきてね!』と言われる。出産前に見ていた日本の方々の出産レポート漫画では、だいたい助産師とか看護師が「分娩室に移動しよう!」と産婦さんに声をかけていたので、そんな分娩室への移動のタイミングを出産素人が判断していいんか?と困惑した。
ここからは私の経験則だが、分娩室に入るタイミングは本当に難しい。出産までまだまだの状態で入ると、先述した分娩室の固い分娩台の上で何時間も陣痛と戦わなければならない。しかも孤独である。病室だと家族がいるが、分娩室には医者と看護師と産婦しかいない。当たり前だが産婦はみんな必死だし、医者と看護師は最低限のことしかしてくれない。励ましてくれている人なんて誰もいないのだ。
しかも、分娩台に入ってしまったら、よっぽどまだ生まれる兆候がない限り、病室に戻してもらえない。まだお産にならなくてもトイレに行かしてもらえないので、他人様の見てる前で分娩台に横たわった(かつM字開脚の)状態で致すしかない(大変恥ずかしい)。基本的にずっと分娩台の上に横になっていなければならない。陣痛が辛いからと立ったり、体を横にでもしようものなら、看護師から喝が入る。陣痛はもちろん痛いのだが、分娩台の上だと余計に痛く感じてくる。
初産がこんな状況だったので、次女出産時はギリギリまで耐えに耐え、分娩室に入って3分で出産した。危なかった。
5.分娩室での医者は怖いが仕事は速い
1つの分娩室で5人も収容できるので、常駐の医者1名と看護師1から2名、そして掃除のおばちゃん1名で切り盛りされている。まだ生まれそうにないときは、分娩室の向かい側にある透明なパネルで隔たれた部屋に医者や看護師が待機している。呑気にスマホを見たり談笑しているのが分娩台からそれはそれは良く見える。(もちろん仕事もしているのだろうが…。)
医者と看護師は基本怖いし、お産までは我関せずスタンス。痛みで叫んでしまう産婦には「静かに!叫んでも何にもならないよ!」ぴしゃりと𠮟りつける。私の隣の産婦さんが痛みで助けを乞うように医者を呼んだが、医者は「はーい?」とただただ満面の笑顔をつくっただけで、そのままさっさと踵を返して部屋に戻っていった。鬼だと思った。私に対しては、ネットで見た陣痛を和らげる呼吸法をしていたら「なんでそんな呼吸荒いの?(笑)」と笑ってくるし、私が日本人だと知って日本の化粧品の話もベラベラしてくる。こっちは今超痛いんですが…?
余談だが、掃除のおばあちゃんは結構優しい。彼女は医療関係者でなく、出てきた胎盤などの処理をしてくれるのだが、年齢的には母親くらいである。通りすがりに苦しむ産婦さんに声をかけたり、飲み水を取ってくれたりする。分娩室で陣痛に耐えている間は特に、医者と看護師と対極で、神様に見えた。
そんな医者であるが、分娩室で誰かがいよいよ産気づいたときはさすがである。手際よく状況を判断し、次々と赤ちゃんを取り上げていく。赤ちゃんが生まれたらすぐ、母親の胸の上にドサッと置く。それがいわゆるカンガルーケアなのか、赤ちゃんを置く場所が近くに無いからなのかはわからないが、本当に生まれたてほやほやの子供を間近に見れたのはよかった。そして長女のときは医者が出産直後の様子を彼女のスマホで記念撮影してくれた。分娩室では立会い禁止&携帯持ち込み禁止だったので、写真を撮ってもらえたことは思わぬサプライズだった。(これもツテのおかげだったかもしれないが。)
6.<洗礼3>産後”も”プライバシーゼロ問題と入院期間
無事に出産が終わったら、産後専用の病室に移動する。この病室は6人部屋なのだが、それぞれ母子+付き添い人が2,3人つくので、かなり大勢の人間が同じ空間にいることになる。時間になると看護師が問診と傷口の洗浄に来る。傷口の洗浄はベッドの上で行うのだが、他人の付き添い人(男女)が入り乱れる中で洗ってもらわなければならないのである。これは正直かなり嫌だった。分娩中も大公開であったが、女性だけだったので全然マシだったな…と思いさえした。これは長女出産時の経験なのだが、次女のときは付き添い人を徹底して病室外に出してから行っていたので、この嫌な思いをしなくて済んだ。この違いは、長女を産んでからの数年の間にプライバシー保護意識が向上したためか、それとも違う病院で出産したためなのかは今でも謎である。
入院期間だが、通常分娩であれば1泊2日、帝王切開であれば1週間ほどである。しかし、長女出産時はコロナが関心を集めていた時期であり、早く家に帰って静かに休みたいとの思いから、午前に沐浴やワクチン接種を終え、出産した日の午後にすぐに退院させてもらった。産後から14時間後のことである。今考えると、病院で1泊する目的は母子の体調の急変等に対応できるようにするためなので、病院の決まり通り入院することが好ましいと思う。
7.出産費用と医者&看護師への謝礼金
長女を出産したときに病院で支払った費用を公開したい。
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2021年、産科小児科病院での出産費用は2,503,840ドン(1万5000円ほど)である。陣痛促進剤の費用とトイレ付きの病室を選んだので、その費用が上乗せされている。当時はベトナムの医療保険に加入していなかったので全額負担だった。次女出産時の費用は領収書が残っていなかったのだが、保険適用でもう少し安かったと思う。
この費用に加え、取り上げてくれた医者たちにも個別に封筒を渡す。母子ともに無事でした!ありがとうございます!の謝礼金である。私立の病院などでは渡さなくてもいいのかもしれないが、公立病院だとマストだと思われる。金額はだいたい1人500,000ドンほど。取り上げてくれた医者+補助の看護師にそれぞれ渡したので、トータル出産費用は2万円ほどである。これが帝王切開になると、病院に支払う費用はもちろん、謝礼金の額も増えるようだ。
引き続き、参考になりにくい私の経験談だが、今では笑い話であるし、人間として強くなった出来事だった。地方ではあるが、仮にも省一番の産科専門病院や省の総合病院がこんな具合である。色々な洗礼を受けたものの、今は母子3人ともに健康なので文句なんぞない。義母が妊娠・出産した時代はエコーも無く、看護師しかいない町の小さな保健所で出産したというから、20数年でここまで医療の質や人々の意識が向上したのは素晴らしい。