歯でわかる人種の違い
夫の歯がちょっと自分とは違うなと思ってきた。具体的には、形と歯の分厚さ、大きさ。
夫の歯:丸っこい形。下の前歯にも厚みがあり、裏に凹みなし。全体的に小さい。
私の歯:角ばった形。前歯は上下とも裏に凹みあり、歯茎から離れるほど薄くなる。大きい。(ベトナム人によく歯が大きいと言われる。)ちなみに、長女の歯はまだ乳歯であるが私の歯と似ている。
小さい頃歯の矯正をしたのだが、私の歯の裏がくぼんでいるのを見て心配した母が歯科医の先生に聞いたことがあった。母の歯の裏はくぼんでいなかったので、私の歯がどうかしたのかと思っていたらしい。歯科医の先生は、「歯の裏がくぼんでいるのはモンゴロイド系だからですよ」と。モンゴロイド=黄色人種、私は根っからのASIANということだ(当たり前だが)。ちなみに、裏がくぼんでいない歯のタイプは「白人系」に多く見られるとのことで、母はちょっと自慢げだったのを子供ながらに覚えている。
昔そんなことがあったので、最近ふと夫の歯を見たときに、私と夫のルーツが全く違うのではないか?という確信に近い疑問に至ったのである。と書いたものの、私と夫は生まれた国が違うので、ルーツが違うことも何らおかしい話でないし、なんなら当然のことなのかもしれない。ただ、今まで夫を「”ルーツとしての”ベトナム人」として意識したことがなかったので、新たな気付きと驚きがあったのである。
少し調べてみるとかなり興味深いことがわかった。まず、このサイトがすごくわかりやすかったので、内容を少しまとめる。
結論:同じモンゴロイドでも東南アジア人と東アジア人はモンゴロイドのグループが異なり、それぞれのグループで多く見られる歯の特徴が異なる。
アジア地域の南部に生活の中心を持つ南方モンゴロイド(東南アジア人、オセアニアのミクロネシア人やポリネシア人、南中国の少数民族など)にはスンダ型歯列(スンダドント)が見られる。氷河期にフィリピンやインドネシアなどの島嶼部を含めて全て陸続きだった東南アジア地域をスンダ大陸と呼び、スンダ型歯列(スンダドント)はスンダ大陸に居住する民族に見られる歯の特徴であるらしい。
一方、シベリアの先住民,モンゴル人,中国人,日本人などを含む北方モンゴロイドには中国型歯列(シノドント)が見られる。北方モンゴロイドはスンダ大陸に起源をもつ原モンゴロイドがアジア大陸を北上して、氷河期の寒冷気候に適応していったグループで、小さな歯をもち簡単な歯の形態をしているスンダドントから大きな歯をもち複雑な形をしたシノドントが生じてきたと言われている。
そんなら具体的にスンダ型歯列(スンダドント)と中国型歯列(シノドント)ってどんな風に違うねん…?と思っていたら、「現代モンゴル人の歯科人類学的調査:東アジアのモンゴ口イドの進化」という論文にわかりやすく図解されていたので、私の中の私が大喜びである。
また、同論文にはそれぞれの歯列の特徴も以下のように挙げられている。
スンダ型歯列(スンダドント)の特徴
・歯は小さめ
・第一大臼歯(奥から2番目の歯)は相対的に大きい
・上顎第3大臼歯(一番奥の歯)は退化傾向
・切歯の翼状捻転(正面から見て前歯が本を開いたようにねじれている状態)やシャベル型切歯(前歯の裏側がシャベル型に窪んでいる)はあまり見られない。
中国型歯列(シノドント)の特徴
・全体的に歯が大きい(特に前の左右2対の歯)
・上顎切歯に翼状捻転(正面から見て前歯が本を開いたようにねじれている状態)やシャベル型切歯(前歯の裏側がシャベル型に窪んでいる)が出現する
これを踏まえると、冒頭に書いた夫の歯の特徴(丸っこく、裏に凹みなし、全体的に小さい)はスンダ型歯列(スンダドント)の特徴、対して私の歯の特徴(角ばっており、裏に凹みあり、大きい)は中国型歯列(シノドント)の特徴に当てはまる。
夫の祖先はずっとベトナム北部で繁栄してきており、親戚一同の顔立ちも東南アジア系(ソース顔)というよりは、東アジア(醤油顔)に近いので、中国系の血が強いではと想像していたが、彼の歯は彼に南方モンゴロイドの血が脈々と受け継がれているのを示していた。感慨深い。
一方の私は、ベトナム人の日本人の歯に対する批評として「歯並びが悪い」「大きい」などと言われてきたが、晴れてその大きな要因がわかったので大変スッキリした。
そして最後に、専門知識のない人間にもわかりやすく、興味深い資料をインターネットで提供してくださっている先生方、誠にありがとうございました。
追伸.
ルーツを知るための遺伝子検査をずっとやりたいと思っていたのだが、自分より夫にさせたほうが面白い結果がでそうである。次回日本に一緒に行く機会があれば、ぜひとも試したいものである。