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【読んでみた】『変な絵』(雨穴 双葉文庫)※ネタバレなし

 著者の前作『変な家』は流行のタイミングで読んでいて、私にとってそれが初めての「モキュメンタリー」だった。新しいジャンルということもあり、それなりに楽しみながら読んだにもかかわらず、本書『変な絵』は文庫になるまで待ってしまった。それはなぜか。純粋に前作で読みにくさを感じたからである。普通の小説に慣れているせいだと思うが、著者の文章は全体的に軽いし、失礼ながら著者はあまり文章を書きなれていないという印象を受ける。前作でも本書でも、読み進めていくうちに「いや、この言い回しは校正で直すべきだったのでは」と思ってしまう部分が多少あった。
 とは言え、文庫になったことを知ってすぐに本書を手にしたのは、著者の本には独特の面白さがあるからだ。というわけで、早速読んでみた。

 私としては、前作『変な家』よりも楽しめた。前作は何となく主人公が当事者ではない、というか、主人公自体に何かが起こるという感じではなかったので、本筋を遠巻きに眺めているような読了感だったのだが、本作は「常に当事者から語られる」スタイルを取っており、「読み始めたら止まらない」タイプの作品に仕上がっていた。
 私は『変な家』から本書を読むまでの間に、同じ「モキュメンタリー」に分類される『近畿地方のある場所について』(背筋)も読んでいるのだが、スタイルで言えばあちらの方が小説という枠をかなり逸脱している。ただ、あちらの場合はあまりに構成が独特すぎてもはや小説だと思って読まないので、そもそも「小説として読みにくい」という感覚にはならない(ゆえに苦手な人は相当苦手だと思われる)。一方で本書が「小説っぽくない」と感じさせるのは、ある程度本書が小説の枠に近づけようとして(あるいは小説という枠から出発して)書いているが故だと思う。ちなみに、『近畿地方のある場所について』を読んだときは、後半に差し掛かったころにどうしても先が気になって寝る前に一気読みしてしまい、その後怖くなって猛烈に後悔したのだが、良くも悪くもそこまでの怖さは本書にはない。

 ただ、先に触れたとおり、やっぱり文書の荒っぽさは気になってしまう。そういう細かいことを気にしないのが「モキュメンタリー」なのかもしれないが(そしてそのことが逆にリアリティを高めている可能性もある)、本書に関してはその部分は「もったいないなあ」と感じてしまった。特に構成が上手にできていて、それぞれの章が独立していて主人公も変わるのに、全部繋がっているというかたちをとっているので、もっと精査すればもっと作品全体の密度が濃くなるように思う。ただ、終わり方に若干のやっつけ感があり、急にリアリティが薄くなってしまうため、そこもちょっと残念だった。

 ちなみに、先に述べた通り私が読んだのは文庫版なのだが、文庫版の特典で、謎解きと後日譚が付いている。これがあったほうが良いかどうかは結構意見が分かれるところだろう。というのも内容が「『変な絵』が出版される前日譚」という、リアリティを持たせようとして逆に無理やり感が出てしまった印象が否めないからだ。ただ、話としてはかなり後味が悪いので、丸く収まらないほうが好み、という人には、あった方が良いと思う。ちなみに私は後味が悪い方が好きなので、謎解きはさておきここまで本編に入れたほうが作品として面白かったのではないかと感じた。

 というわけで、『変な絵』は『変な家』より面白かったです。ケチって文庫になるまで待たずにハードカバーで買っても良かったなと思いました。ただ、文庫版の特典がついている分、待った甲斐はあったかもしれません。

 モキュメンタリーという新しいジャンルは、確かに普通の小説を読みなれている身としては読みにくいのだけれど、今までの小説にはない没入感があるのは間違いない。このブームはまだしばらく続きそうなので、もう少し読んでみたいと思う。

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