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忘れえぬ人々 4 服を作ってくれた人

 はま子さん(仮称)のことをリアルタイムで覚えている人はもういないかもしれません。はま子さんは私が小学生の頃、服を縫ってくれた方です。旧家の娘さんで洋裁で身を立てて暮らしていました。

 当時は手頃な子どもの既製服が少なく、普段着は母が縫ったり編んだり、時に「お下がり」でした。その時は多分、学芸会か何か行事のために「よそゆきの服」として奮発して仕立てを頼んでくれたのでしょう。

 はま子さんは品がよくきれいで繊細な感じの方でした。なぜか母と年長の従姉妹はたまにヒソヒソとその旧家の話をしていました。家族間に何かトラブルがあったのかもしれません。

 その服はベージュ色の濃淡のある大きめの格子柄で、ジャンパースカートとジャケットの組み合わせでした。背の高い私によく似合っていましたが、ジャケットは背が伸びて着られなくなり、お下がりとして去って行きました。ジャンパースカートは吊りスカートに直してもらい、長く着ることができました。丁寧な手仕事でした。

 訃報を知ったのは私が中学生の頃だったと思います。はま子さんはまだ三十代で若かったはずです。にぎやかな人たちが多い港町で、そっと暮らし、そっと逝ってしまいました。

 今でもあの服の淡いベージュ色はよく覚えています。

 

 

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