【24/10/10】海の空に浮かぶリフト
※ややグロ
海。
家族で来たのは、初めてだった。
「パパ、ひとりで泳いできてもいい?!」
私はうっきうきだった。
だって初めての海!
パパとママと、弟と。
家族三人で、学校もカイシャも休んで遊びに来たのも初めてだった。
海の水は塩っ辛くて、泳いでいるとき口に入るとオエーってなった。
弟のタツヤはまだまだお子ちゃまだから、海を怖がって入ってこなかった。
仕方ないから、浜辺でいっしょにお城をつくった。
でもお城がどんなもんかよくわからなかったから、途中から私たちの理想のお家をつくった。
お昼ご飯は焼きそば!
家で食べるのより数倍うまいの、なんで??
タツヤも目をキラキラさせてた。
お昼のあとは、少しだけお昼寝をした。
授業がなくて、お昼のあとに堂々と寝てられるなんて
どれだけ幸せな日なんだろうか!
そのあともたくさん遊んで、そろそろ帰る時間かな?となった頃。
パパが言った。
「最後にちょっと、スリルあるやつ乗りにいかない?」
「すりる?」
「ドキドキするやつ!」
最初は(やだな)と思った。
ジェットコースターみたいなやつは苦手だ。
心臓がふわっするから。
とりあえずパパと一緒に乗り場を見に行くと、一瞬で(やだ)は消えた。
だってすっごくおもしろそう!
見たことない乗り物だった。
海の上に、ぐるーーーーって円を描くレールが頭の上を走ってて、そこから等間隔に椅子がぶら下がっている。
パパが「スキー場にあるリフトみたいだな」って言ってた。
座るところが小さな船みたいになってる椅子もあって、落ちる心配はなさそう。安心して乗れそうな乗り物でよかった。
ママとタツヤは「ここで見てるね」と途中で歩みを止めた。
パパとふたりで、ママとタツヤに手を振りながら列に並ぶ。
「はい」
並んでる途中、スタッフさんに渡されたのはエアガンだった。
ぽかんとしていると、後ろからパパが言った。
「シューティングゲームなんだって」
シューティング?
前を行く人たちを見ると、何かに向かってエアガンを撃っている。
なるほど、とにかくなんか撃てばいいんだね?
いよいよ乗るぞ!ってなったときに気づいた。
あれ、シューティングの的、ちょっとずつしか残ってない。
前の人が撃てなかった部分だけ残ってるようだった。
へんなアトラクションだなぁ。
「パパと勝負しよう!」
パパが言った。
「のった!」
私はそう言って、先にひとりで椅子に座った。
上部のレールにつながった銀色の1本の棒を掴み、お尻ひとつぶんの幅しかない椅子にしっかり座り、エアガンを構えていざ発進!
最初の的は、よく映画とかで見るような人型の的だった。
でも特に左側が撃ち抜かれていて、右半分しかない。
ちょっと気味悪いなと思いつつ、右側を狙ってなんどか引き金を引いた。
おもちゃのレーザーみたいな赤い光が出て、ガガガガとこれまたおもちゃらしい電子音が出る。
目標の的の、アタマ部分の右端が「パスッ」と飛んだ。
「あたったー!」
当たるもんだなぁ!
レールをどんどん進んでいく椅子は、人型の的を尻目に次の的へ向かっていく。
次は、開いた棺だった。
茨がまとわりついた棺が立ってこちらに中を見せている。
何を撃てばいいんだろう、と思いながらとりあえず適当に撃ってみた。
そのとき、左の後ろの方で大きな高い声が聞こえた。
振り返ると、真っ赤な液体が飛び散っていた。
ギリギリ足がつかないくらいにある海面。
左後ろの方で、たぶん人がいたのであろう椅子の下が、特に真っ赤な液体で染まっていた。
高い大声は、悲鳴だったんだと思った。
椅子と椅子との距離はそれなりに遠い。
あっちのほうで大人が大声をあげている、ような気がするんだけど、何を言っているかはわからないし、もしかすると大声をあげていないのかもしれなかった。
右手に持ったエアガンが、視界に入った。
……これのせい?
通過しきるギリギリのところで、適当に狙った棺に目をやった。
左下に、最初はなかったはずの、パパのこぶしくらいの大きさの穴が開いていた。
レールは遠くまで続いている。
後ろにはパパがいるはずだけど、椅子の間隔が広くてはっきり見えない。
試しに、前に向き直って、引き金を何回も引いてみた。
何回も何回も。
おもちゃみたいなガガガガという音が続く。
そのうち、前方でから「パスッ」と音がした。
同時に、真っ赤な液体が飛び散ったのが見えた。
かすかに見えている、前の人が座っている輪郭がぐにゃりと揺れて、海に落ちた。
なんなんだ、このアトラクションは。
天を仰いだ。
透き通るような、真っ青な青空が果てしなく続いている。
END