【24//10/11】天空の散歩
6階からの景色は、悪くない。
目の前に大きな建物がないということも相まって、自宅から見える風景は好きだった。
天気が良ければ青空が遠くまで。
夕方にはコウモリが羽ばたくシルエットが可愛く。
そして虫はここまでの高さではほぼこない、という嬉しい環境。
それが、どうだ。
3027年。
部屋から見える景色は、中高生が電線の上を散歩する姿がほとんどになってしまった。
最近のニュースでよく取り上げられる「天空散歩」。
なんでも地上の土やアスファルトを歩くことに飽きた人間たちは、本格的に空を闊歩することを夢見始めたのだそう。
あたしは歴史に疎いから、昔の人たちが何をやって、今の世の中がどうなったからこんなことができるようになったのか?なんて、詳しいことは覚えてない。
でも、とにかく、天空散歩なるものが実現し、それが流行ってしまったのだ。
ただし本当は18歳以上、大人になってから免許を取ってやろうねっていうもの。
あたしの部屋から見えるのは、そんなルールを無視する中高生なのだ。
ちなみにあたしは今年で27歳。れっきとした大人である。
こんな無法地帯を見過ごすわけにもいかない、というわけだ。
「刺激がほしいお年頃なのね……」
今日も、そんなことをぼやきながらハンガーを数本と、長いロープを肩にしょってベランダから電線に飛び移る。
「ちょっときみたちーーー」
声をかけながら、電線を伝っていく。
少年少女は「やば」と言いつつ、慣れない足取りでゆっくりとしか進めない模様。
「危ないからやめなさいな」
一方のあたしは慣れた手つきと足取りでパパパと追いつき、届いた子たちから順番にハンガーで捕まえてロープを使い、地上に下ろしていった。
途中、たまにロープが足りなくなると手助けしてくれる土木工事のおじちゃん(施工管理の人と、とび職の人)と目が合って手を振る。
今日も今日とて、いいことしたわぁ。
全員おろして「メッ」と言った後、ロープを使って部屋に戻るのでした。
感電せんの?とかはよう知りません。
なんか、歩ける時代のようです。