宿題と雨の日の傘男
すらりとした和装の男が歩いていた。ラグビー経験者みたいな肩幅の広さで、ゆっさゆっさ歩く様はなんだか見ていて壮観で、彼とすれ違う猫や小人や僕やゆめみまどうがみんな彼のことをチラ見しては通り過ぎていく。でも彼には顔がないからどんな顔をしてるのかは見えない。正確にはあるんだけれど、それは物質としての頭ではなく、ビニル傘に映し出されるビジョンとしての頭があるのだ。物質としての頭がないもんだから、肌荒れだってしないし髪の毛も乱れない。彼は傘男と言って、雨の日にだけ街に現れる。傘男のない首のところから火の揺らめきが漏れて、ぱちぱちと音を立てるのを僕は後ろに聞いていた。けれどもそのぱちぱちは傘に当たる雨の音だったかも知れないと思ってシャーペンを置いた。僕はあともう一つ、学校の宿題に集中しきれずにいる。