肩の国の人とみかん飴
ダイダラポッタラの肩の上にある国からおっこちてきた人は最初、まるでこの世の終わりみたいな顔をして残念がっていたけれど、一ヶ月もすればすっかりこの街に馴染んでしまったのだ。
「ワクセイ堂のみかん飴は、うまい」と彼は云った。「だが水瓶印のブルーベリージャムはだめだ。後味の風味が終わってる」
「そんなこと云うなよな」と僕は言った。
「そんなこと言うよ」と彼は云った。「みかん飴がなくなっちまった」からになった飴の缶を振りながら、悲しそうに目を伏せた。
「ジャムなら冷蔵庫にあるよ」
「いらない」
「美味しいのに」と僕は言った。「損だね」
「損なもんか」と彼は云った。「自分の中で好嫌を明確を持っていることのなにが悪い」
「まあ、たしかに」
「そうだろう」
「きみ、もう肩の国に帰る気ないだろ」と僕は言った。
「ないね」と彼は云った。「あの国にはみかん飴がない」