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鳥取の海鮮丼と、わたしの人生の選択
鳥取で暮らし始めた頃、食べ慣れた関西の味とは違う、土地ならではの美味しさに出会うことが多かった。中でも、鳥取港で食べた海鮮丼は、私の人生の選択とどこか重なるものがあった。
最初に出会ったのは「モサエビ」。
エビといえば、透き通った身にぷりっとした食感を想像していた私にとって、モサエビの見た目は意外だった。殻は赤黒く、どこか武骨な印象。しかし、口に運ぶと驚くほど甘く、ねっとりと舌に絡みつくような濃厚な味わいが広がった。
「こんなエビ、食べたことない…」
それは、鳥取で暮らすことを選んだ自分自身のようでもあった。最初は馴染みのない土地に戸惑い、都会とは違うリズムに違和感を覚えた。それでも、ゆっくりと味わううちに、その土地ならではの魅力がじわじわと染み込んでいくようだった。
そして、冬が訪れると松葉ガニの季節がやってくる。
初めて食べた松葉ガニの身をそっと箸でつまみ、口に含んだ瞬間、その繊細な甘みと旨みに息をのんだ。派手な味ではないけれど、噛めば噛むほどに深みが増していく。まるで、一つひとつの選択を積み重ねながら生きてきた自分の人生みたいだった。
鳥取で働き、暮らし続けるのか、それとも新しい世界に飛び込むのか。
松葉ガニの殻を慎重に割りながら、私はこれからの人生について考えていた。決断とは、いつだって簡単なものではない。どれを選んでも、それぞれの味わいがある。大切なのは、その味をしっかり噛みしめながら生きることなのかもしれない。
あれから時が経ち、私は鳥取を離れた。しかし、あの海鮮丼の味と、そのとき心に浮かんだ決意は、今でも変わらず私の中に残っている。