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怒りんぼ

ちょっと時間が空いたときや息抜きをしたいとき、インスタを開いて動物の動画をぼんやり眺めることが多い。キリンの親子がのんびり気持ちよさそうにサバンナを歩いていたり、ゾウの赤ちゃんがコロンとこけたり、鼻をグルグル回したりするかわいい姿を見ていると、きりがない。最近は、お父さんにちょっかいを出す小さなゴリラ、お母さんに抱っこされてうれしそうにしているオランウータンの赤ちゃんなど、「やっぱり人間に近いなあ」と感心しながら霊長類を見ることも増えた。そのせいか、サルの動画までおすすめで表示されるようになってきた。

サルの世界はよくわからない。年寄りのサルが子ザルを叩いたり、手足を引っ張ったり、さらおうとしたり、サルどうしでキーッといがみ合ったりなど、何だかイジワルが多そうだ。中にはかわいい小さなサルたちの動画もあるが、ふと目に留まったものがあった。子ザルがお母さんに向かってキーキーと何か訴えている。手足をバタバタさせて、頭もめちゃくちゃに振って、もう大変だ。あまりの勢いに、ひとりでにパタンと倒れてしまうが、また起き上がって同じようにわちゃわちゃしている。お母さんザルは、どうしたものかと困り顔。子どもはひとり(一匹?)で怒りっぱなしだ。

何だろう。繰り返し見てしまう。笑いながらも、人(サル?)ごとと思えない。そうだ、これは自分だ。

自分は小さい頃から怒りんぼである。ただ、怒ると親に怒り返されたので、やさしそうなお母さんを持つ例のインスタの子ザルとは状況がやや異なるのだが、ひとりでひたすらぷりぷり怒りまくるのは同じだ。あまりに気が短いので、小学生の頃、祖母のところへ来ていた指圧師のおじさんがこんなことを教えてくれた。「指をしばらく塩水につけてから、お日さまに向かって手をかざしていると、指先から白い“かんの虫"がにょきにょき出ていくよ。それで心が穏やかになる」自分でも怒りんぼでいるのはイヤだったし、何より“かんの虫"を見てみたかった。きっと、ムーミンのニョロニョロみたいなのが指から出てくるんだろう。おもしろそうだな、とやる気満々になった。

その日は曇りがちだったが、なんせ気短なので晴れの日が来るのを待てず、えいやと“かんの虫”退治にかかった。適当に作った塩水に手を入れ、長湯した時のように指先が白くしわしわになるまで待った後、曇り空にうっすらと見える太陽に向かって手をかざしてみた。ふむ。いくら待っても指先から白い虫は出てこない。日差しが弱すぎるのかな。もっと晴れた日のほうがよかったか。塩水が薄すぎたのか。もっと指を浸しておくべきだったか。ううん、やっぱり晴れでないと、だめなんだ。

結局、白い虫など指先から1ミリも出てこなかった。しかも、晴れの日にもう一度試してみようという気にもならなかった。このことを指圧師のおじさんに報告したのか、誰かほかの大人に話したのか、すっかり記憶にない。今思えば、かんの虫とは乳幼児がぐずることだし、そもそも虫など指から出てくるわけがない。虫退治について説明するおじさんの顔も、うっすら笑っていた。

それとも、実は“かんの虫”が成虫になって、体内に巣くっているのだろうか。いまだに怒りんぼのままだ。今日もテレビの前でぷりぷり怒っている。

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