メンヘラコミュ症ホステスになる❊初めてのお客さん❊
3ヶ月経った頃、4流ホステスの私にも初めてのお客さんがついた。
寺尾聡似、身長157センチ、土木作業員の安倍さん。年齢は当時の私より20ほど上だったので40過ぎ。
安倍さんは3回目に店に来た時に店外デートを持ち掛けてきた。
初めて自分にできたお客さんだし、断り方もよく分からず、休日に食事をすることになった。
デート当日、黒いナイキのTシャツに黒のスラックス、黒革の(たぶん合皮)セカンドバッグを小脇に抱え、サングラスをして安倍さんは颯爽と登場した。まるでダフ屋のような風貌。
駅前の居酒屋で1杯やり、2軒目は知り合いの店に行こう、とタクシーで移動。
雑居ビルの2階にあるその店はさほど広くなく、若いバーテンが1人いるだけだった。
飲み屋の若い子が営業終わりや、アフターで利用するような店だった。
「安倍さん、今日はデートなんすね」
バーデンに声をかけられた安倍さんは
「そうなんだよ〜」とニヤついていた。
安倍さんはソルティードッグを1杯飲み終えた頃に、「今日、いいんだよね?いいんだよね?」と私に訊ねてきた。
私は店外デートも、父親ほど歳の離れたおじさんと飲みに行くのも初めてだったので、「いいんだよね?」の意味をそこまで深く考えておらず、「えへへ〜」と適当に流していた。
2杯目のソルティードッグを飲み終え、「じゃあ、そろそろ行こう」と私の手を引き店を出た。
私の肩に後ろから腕を回し、もう一方の手で私の腕を掴み、周到にホールドした。
二人三脚かと思うほど密着し、足早に3件目といざなわれた。
到着した先は、ラブホテルだった。
なるほど、どうやら徒歩2分でホテルに行ける店をチョイスしていたようだ。
ホテルに入るやいなや、安倍さんは手酌で瓶ビールを飲みだした。
やっぱりそういうとだったのね………と心の中でショックを受けていた私は、ソファーに腰を下ろし、観念するしかあるまい……と覚悟を決めていた。
安倍さんはビールグラスをテーブルに置くと、優しく唇を重ねてきた。
固く結ばれたままの唇…………
一向に舌を入れてくる気配がない。
10秒ほどそれが続き、こいつ寝とんか??と薄めを開けると、目と口をガッチリと噤んだ間抜けな安倍さんの顔が見えた。
長いこと男やってて、こんな幼気な私をホテルに連れ込んだくせに、こんなキス下手とかある??!
こんなにキス下手な奴、アレが上手いわけないやん!!!
興醒めした私は、「これ以上はムリ!!」とお断りした。
「そか、じゃあ出るか」と安倍さんは精算をしだした。
「いやー、居酒屋1軒くらいの値段だな〜」と謎に嬉しそうに私に報告してくれた。
え、おまえ、何しに来たん??
娘くらいの女子にリードしてもらおうと思ってたん??
なんだかんだで私のセカンドバージンは守られた。