帰ってきた橋本治展

神奈川近代文学館の橋本治展にいく。
元町中華街駅の、元町方面改札からでてエスカレーターで延々登ってゆき
かなりの高さになって外に出ると港の見える丘公園まではあと少し。
長く急な階段を登らなくてすむため、楽をしているなあと思いながら
ついこのルートをたどる。
外に出ると、そこはアメリカ山公園で、
こちらも見晴らしのよい気持ちのよい庭園。
そこをでて外人墓地脇を抜けると、港の見える丘公園の
イングリッシュガーデンがあり、ちょうどバラの季節でもあり、
大変な賑わいとなっていた。
そして。薫風にのってただよう花の香り。
近くのバス停まで届くようで
こちらまでバスに乗ってきた人たちは、運転手さんが窓を開けると
花の香りがしてくる、といっていたと話している。
贅沢なことだ、と園内をそぞろあるく。
そこを抜けて、近代文学館へ至る道では港が見えてきて、
そこにきちんとベイブリッジが見える。
つくづく、この町は絵になる景色にあふれている。


遺族が原稿など多くの物を寄贈した、と聞いていたが
展示は充実しており、あらためて氏の書き上げた著書やら
イラストなど多彩な仕事とその圧倒的な物量が迫ってくる。
使用していたワープロが、氏のたたくスピードに耐えかねて何度も壊れ
あまりにも多くの印刷をしたためにまた壊れ
(ワープロとはその本体で印字ができる便利なものだった)
しまいには手書きになった、という恐ろしいエピソードも
愛用した(壊した)ワープロとともに展示にある。
氏が8年かけて豪華装丁の限定本として出版し直した『マルラメ草紙』の
制作途中の議論が映像になって流れていたが、「観る楽しみ」にこだわった
様子はイラストレーターでもあった氏の面目躍如という気がした。
現代美術もいいけれど、そこに観る楽しみ、がなくちゃね、
とひっそりと、でも激しく共感。


物故の作家とはいえ、そして寄贈された物があったとはいえ
この文学館にしては思い切ったセレクトではと思う。
これまでの展示を見ても近代、という名前からか、
評価の定まった作家を取り上げ手堅くはあるが、新鮮さにはやや、
と思うところもなくはない。
世田谷文学館などはSF小説を取り上げたり、
ファンタジー作家の上橋奈津子を、NHKのドラマ撮影で使った衣装とともに
展示したりと、かなり自由にやっている感があるのだが・・・。
文芸ストレイドックとのコラボも、たしか関連企画だったはずで
本展はおなじみのかっちりとした近代文学だった。


帰ってきた、というサブタイトルは氏の小説家デビューとなった『桃尻娘』
の舞台がこの山手周辺の横浜だったから、ということらしい。
聖地巡りならぬ、関連の場所を記載した地図も配布している。



さわやかな五月晴れの中、帰りは外人墓地脇を抜けて急坂をくだる。
元町商店街をぶらぶらしながら、川を渡り昼食は中華街へ。
修学旅行生や観光客でごった返す中を、なじみの店まで歩く。
いつもと変らぬ、おいしい中華をいただき、
外に出たらついでに素朴な卵の味のエッグタルトを買って、道々ほおばる。なんとも贅沢。


家に戻ってからも、氏が激賞していた有吉佐和子の「真砂屋お峰」を
読みながら、江戸時代には元禄文化と家政文化があり
そういえば随分様子が違うなどとあらためていろいろ調べたりしている。
江戸文化と一口には語れないものだったと反省を込めて。


時間があるので、大作の平家物語にチャレンジをと思っている。
全16巻は、塩野七生の「ローマ人の物語」なみかと思ったが
それより1巻多い。
饒舌な人であったからなあ、とぼちぼち読み進めてみるつもり。









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