森見登美彦「シャーロックホームズの凱旋」

森見登美彦は好きな作家の一人だが
どうやら長くスランプだったという。
自らのスランプをシャーロックホームズのシリーズが中断したあと再開したように、彼がスランプだったという話に置き換えて、
森見自身が復活を遂げた、という体裁なのがこの作品らしい。


舞台は、京都。
時は、ビクトリア女王の時代。
シャーロックホームズの物語を、森見ワールドの京都の町に移し替えた
というところだが、
作中でワトソンは不調のホームズを有馬温泉に湯治につれていき
青竹踏み健康法を勧め、と違和感なく2つの世界が混じり合う。


そのうちに、12年前にホームズが解決できなかった事件が
今回のスランプの心理的な鍵になっていることが推察され
そこに、その事件に絡んだ不思議な出来事が起きて、という話なのだが。
12年前の事件と、今、新たに起きた心霊的な現象と、
探偵もののお約束ではあり得ない「非科学的な真相であり心霊的な解決」
のあたりは、
ファンタジー小説として本当に面白く読んだ。
このあたりは森見ワールドの真骨頂ともいえるだろう。


だが。
そのあと、残り3分の1をきってから、
物語全体を回収するために怒濤のごとく2つの主題が展開する。
本来のビクトリア朝ロンドンの話とビクトリア朝京都が
パラレルワールドであることと、
ベストセラー作家が人気者になりすぎた主人公を疎ましさのあまり
物語上で殺してしまうという主題、
(コナン・ドイルとシャーロック・ホームズの関係性だが)
いわゆるメタフィクションが混在して、こちらはあまり好きになれない。


できれば、京都の古い館の心霊現象という
それだけの美しくも不可思議なファンタジーだけで終わって欲しかった。

ただねえ。
これは、シャーロックホームズを冠する物語だから。
そのあたりをもうひとひねり、ここまでが構想のうちだったのだろう。
しかし、推理小説をもとにファンタジーを書くとは。
この人はやっぱり才人なのだろう。




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