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お気に入りの本こそベコベコのボロボロにしたい
私は王となってあなたという領土の
小川や町はずれのすみずみまで
あまねく支配したいと願うのだが
実をいうとまだ地図一枚もってはいない
通いなれた道を歩いているつもりで
突然見た事もない美しい牧場に出たりすると
私は凍ったようにたちすくみ
むしろそこが砂漠である事を
心ひそかに望んだりするのだ
支配はおろか探検すら果たせずに
私はあなたの森に踏み迷い
やがて野垂れ死にするかもしれぬが
そんな私のために歌われる
あなたの挽歌こそ
他の誰の耳にもとどかぬものであってほしい
『うつむく青年』より
谷川俊太郎
谷川さんの詩は教科書に載るくらい道徳的だし
柔らかくやさしい雰囲気のものばかりだったので
この詩を読んだときギクッとした。
父親とか祖父が昔の恋人へ宛てた手紙を読んでしまったような、そんな気持ち。
この詩を初めて読んだのは10代の頃だったと思う。幼き日の私は詩の主人公が言わんとすることがわかるようなわからないような。
野垂れ死に、とか挽歌、とかなんかちょっと怖いしせっかく好きな相手の美しい部分を知れたのに
それが砂漠であるように望んだりとか
いったいどういうこと?と思った気がする。
あれからうん十年
今はこの詩を書いた彼の気持ちがちゃんとわかって、情熱的な人だったのね谷川さんウフフと思いながら詩の一節をたまに思い出したり読み返したりする。
彼の最後の詩は『感謝』というタイトルだったらしい。谷川さんらしいなぁと思った。
目が覚める
庭の紅葉が見える
昨日を思い出す
まだ生きてるんだ
今日は昨日のつづき
だけでいいと思う
何かをする気はない
どこも痛くない
痒(かゆ)くもないのに感謝
いったい誰に?
神に?
世界に? 宇宙に?
分からないが
感謝の念だけは残る
谷川俊太郎
朝日新聞デジタル
タイトル写真はお気に入りのエッセイ
持ち運びまくって折れ曲がっているのはご愛嬌。
自分の物感があって愛着が湧くので
お気に入りの本こそベコベコのボロボロにしたい。