カタカナ英語の改善にはまず聴き取りと短母音の発音
英語がヘタ
「お前の使う英語は、私たちの使っている英語と違うようだ。質問の聴き取りにも問題あるかもしれない」と自分の研究セミナーの後、米国人指導教授から言われました。当時は米国ミネソタ大学院博士課程に所属していました。
彼は精一杯に気を遣った表現で、私の英語を何とかするように忠告してくれたのです。奈落の底に落ちた気分でした。自分でも気づいていたからです。
米国大学院の博士課程には2つの大きい関所があります。1つは予備試験での口頭試問、そして最終セミナーの後の口頭試問です。どちらも英語でのコミュニケーション能力が不可欠です。
37歳で渡米し当時40歳の私には、英語力は大きな壁でした。私の英語に慣れている周囲の人たちとの日常会話はなんとかなる、でも5人の博士号審査委員相手の口頭試問となると、当時の私の英語では無理でした。
米国育ちの米国人のようにはしゃべれなくても、「米国人が我慢して聞けて理解できる英語」を身につけなければと思いました。指摘された問題点はまだ致命傷ではない、しかし何とかする必要があるのです。もう逃げ道はないのです。
自分の英語力での急を要する問題点は2つ:会話での聞き取りが悪い、そしてカタカナで発音しているカタカナ英語なのです。まず英語を聴き取る力、そして自分のカタカナ英語を改善しようと思いました。
聴き取り改善対策
聴き取れない単語や人名も、スペルがわかると、急に聴き取れるようになるという経験がありました。例えば、「Larry」という名前の初対面の相手に「xxxxxだ、よろしくね」と言われても、相手の口が動き何か言っているのはわかっても、名前は何と言ったか聞こえないのです。でも名前のスペルを書いてもらうと、もう「Larry」という名前が簡単に聴き取れるのです。私の英語レベルではスペルを知っていること、相手が何を言っているか予想する想像力が大切と思いました。
聴き取りについては、英字幕付きTV番組を活用することを思いつきました。1990年から、米国では聴覚の障がい者用に開発されたクローズド・キャプション(Closed Captioning: CC)でTV番組を字幕付きで見れるようになっていました。TV番組での会話を、英字幕で確認することで、聴き取り力を上げようと思ったのです。それまでTV番組で会話を聴いても、はっきりと聴き取れない悩みがあったのです。
CC用デコーダーと呼ばれる専用のチューナーを中古で買い、1日1回はTV番組を見ました。耳で聴いた英語を英字幕で確認、または英字幕を耳で確認できるのです。英字幕のおかげでニュースやコメディ番組もよくわかるようになりました。聴ける語彙が広がりました。
カタカナ英語の発音改善対策
渡米した直後に英語教室の先生から「外国育ちの人は短母音の発音が苦手だ」と言われました。まず短母音から始めようと思いました。でも英語教室に通う時間はもうありません。
すき間時間で独学するための教材を探して見つけたのが “Pronounce it Perfectly in English”という180ページでCD付文庫本でした。値段も5ドルくらいでBarron’s社のものでした(今は絶版、中古で25000円)。外国人学生にはよく知られた出版社でした。
この本でまず驚いたのは英語には短母音と長母音があり、その本では短母音は8つもあるのです。そんなことも知りませんでした。
まず8つの短母音に絞って、CDプレイヤーで聞き(今ならスマホで)、鏡で口元を見ながら発音の真似をしました(Speech shadowing or repeating)。その本には口唇の形が図示してあったからです。母音では、この顎の下げ具合、口の開け具合と口角の広げ具合を意識して発音するのです。子音はそれに加えて、喉奥と舌の位置の模式図があり、息の出し方も大切なのです。
米国育ちの人は自然に身についているのですが、37歳まで日本育ちの私は、自分で意識して口唇の形と喉奥と舌を意識して発音するしかないのです。また米国人と話すときに、彼らの口元の形や音の出し方もよく観察するようになりました。
米国人は口を大きく開けたり横に広げたり、さらに口を小さくすぼめたりして、口から下顎までを立体的に使い、口全体を大きく動かしているのです。眼の動きも含めて、これも米国人の身体表現(Body language)の一つとかと思いました。
言葉はその国の表現文化の具現のようです。英会話での発音の練習をしていると、口を大きく開けたりすぼめたりして、顔全体を大きく使う必要があるのです。少し練習するだけで、口や顔が疲れるのがわかりました。
短母音の次は長母音9個と子音20個の練習もしました。この練習を6か月続けました。カタカナ英語は完全には治りませんでしたが、なんとか米国人が我慢できて聞けて理解できるというレベルになったようで、予備試験を受験できるまでになりました。
追い詰められての学習法
逃げ道はないという状況のせいで、問題点を見つけ対処法と優先順序をつけ努力を続けました。まさに急を要する問題点への対応でした。決して薦めません。十分な時間をとって対応をすべきでした。なんとかなったからといって、対応が100%成功したわけではないのです。運がよかっただけと思っています。
なおこの英語の聞き取りと発音の練習は、帰国してからも英語でのプレゼンテーション前には、十分な時間をとってしていました。日本で暮らしていると、すぐに元のカタカナ英語に戻るのです。
短母音8つ
参考までに短母音8種の発音記号と実例と、自己流の発音のコツを下の図に示します。出典2)に示した日本語サイトでも勉強できます。なお発音記号は6形式(Longman, Oxford, American Heritageなど)あり、私が学んだのはBarron式と言われるものです。
出典:
1)Pronounce it Perfectly in English, Jean Yates, Barron’s Educational Series, Inc. https://www.barronseduc.com
2)英語の母音一覧・徹底解説https://hatsuon.merise.asia/media/2967