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初めてのダイヤ凧の工作【悪戦苦闘の記録】

2023年12月~2024年1月の2ケ月は生涯忘れられない日々となった。一つは記録的な少雪暖冬であり,もう一つは地元の学童保育で開催したダイヤ凧工作で大変な思いをしたから。少し長く(約4,400字,11分ほどに)なるが,その顛末を時系列で示す。


1. 学童保育での工作教室開催の経緯

2023年11月,地元の学童クラブのTさんより「2024年1月初旬(お正月明け)に工作教室を開催してほしい」との電話があった。Tさんとは面識がない。私が少年少女発明クラブでボランティアをしていることを誰かに聞いたようだ。

以前から地元の子供達のために何かやりたいと思っていたので,迷うことなく引き受けた。大まかな人数,予算,工作時間などを聞き,発明クラブで過去に実施した5~6種類の工作の資料を届けた。

11月末にTさんと相談した結果,ダイヤ凧工作に決まった。正月にふさわしい題材であり,自分の好きな絵を凧に描くことでオリジナルな作品に仕上がる。子供によっては,それを冬休みの宿題(工作物)として提出するらしい。

2. ダイヤ凧工作の準備

2.1 ダイヤ凧とは?

上の見出し画像のようにダイヤモンド形の凧のこと。

2本の竹ひごや細い角材を十字形に配置し,その交点を糸で縛って骨組みを作る。骨組みの構造を図1に示す。縦横2本の棒の長さは同じ。ここでは1と正規化する。縦棒の上端をA,下端をBと表す。横棒の左端をC,右端をDとする。縦棒と横棒の交点をOとする。

図1 ダイヤ凧の寸法(左はOA:OB=1:2,右は1:3)

骨組みが出来たら,それにダイヤ形に切り取った紙を糊付けする。次に,横棒の両端を糸で結び,内側に少し湾曲させる。最後に,足を付けて交点Oにタコ糸を結んで完成。

これなら小学生でも簡単に出来るはず,,,

2.2 ダイヤ凧の構造(問題点1)

12月よりダイヤ凧の試作を始めた。私にとって初めての(そして悪夢のような)ダイヤ凧工作の幕開け。

設計図や組み立て手順などの資料などは発明クラブで保管していたものを使った。ただし,ダイヤ凧工作は10年ほど前にやったのが最後とのこと(その時の担当者は辞めて今はいない)。

面白そうな工作なのに,なぜやらなくなったのか? 少し心配になってネットでダイヤ凧の工作に関する記事を探してみる。多くの記事や動画がヒットした。それらを見ていたら最初の問題点に気づいた(問題点1)。

発明クラブの資料ではOA:OB=1:2となっているが,ネットの記事ではOA:OB=1:3となっているものが多い(1:2は少数派)。なお,凧は左右対称なので,OA:OBの比に依らずOC:OD=1:1となる。

さて,1:2と1:3のどちらにすべきなのか? その二つの構造が出てきた理由を調べてもよく分からない。

2.3 問題点1の解決

ネットで検索しても問題点1に関する記事は見つからない。かと言って,何か大きな違いがあるかも(逆に,大差ないかも?)知れない。そこで,無理やり次のような理屈を考えた(間違っている可能性が高いので注意!)。

凧はヨットと同じように風の力を利用する。その力は風を受ける面積に大きく依存するから,OA:OBの違いが凧の面積にどう影響するか考える。

図1より,凧の面積Sは左右の二つの三角形の面積の合計となる。よって,S=AB×(OC+OD)÷2=AB×CD÷2。つまり,凧の面積はOA:OBの比に関係なく一定になる。後述するように,凧の飛び方がOA:OBの比にあまり関係なかった理由がこれで説明できる?

もちろん,面積以外の条件もあると思う。例えば,同じ面積でも縦長の形が横長より安定することは容易に想像できる。それは横幅と縦の高さの比というパラメータ(アスペクト比)で表現できるが,1:2と1:3のアスペクト比は同じである(図1を参照)。

なお,1:3の方が良く飛ぶという複数のネット記事があることは承知している(「ダイヤ凧の作り方」で検索すればすぐに見つかる)。

Disclaimer:上記の主張は,あくまで私個人の見解であり,その正当性を保証するものではない!!

2.4 ダイヤ凧の回転(問題点2)

OA:OB=1:2と1:3の違いは,この記事を書いている今でも分からない。しかし,ただ悩んでいても仕方ない。そこで,同一の素材で二通り(OA:OB=1:2と1:3)のダイヤ凧を作り,実際に上げてみた。その日は風が弱く,両方とも少しだけ上がって地面に落ちるという具合。

次に,風が強い日に上げてみた。凧は一旦,舞い上がるものの,すぐにバランスを崩してクルクルと回転して落下した。それは両方の凧とも同じ。凧の面は安定化のために湾曲させており,その曲がり具合(曲率)を変えてもダメだった。

その結果より,凧が回転する理由については1:2と1:3の差ではなく,左右の非対称のせいだと考えた。そのため,素材の寸法を正確に測り,凧の湾曲の左右対称性にも注意して作り直した。再度,風の強い日に飛ばしてみると,回転の問題は両者とも全く改善されない(問題点2)。

この時点で,1:2と1:3には大差ないと判断した。このため,以降の話は全て1:2の構成に限定している。

2.5 問題点2の解決

凧の回転を防ぐには左右のバランスを完全にすればよい。しかし,そもそも小学生の工作なので,寸法の正確さや厳密な対称性を求めることは現実的でない。また,風の強さも左右で同じとは限らない。このため,多少の誤差や外乱があっても回転しないことが必要だ。

ネットで検索してみると,その対策としてバランスが崩れにくい構造,あるいはバランスの崩れの補正という観点から下記の方法があることを知った。

①骨の強度を上げる(棒を太くして変形を抑える) 
②凧のサイズを大きくする
③曲率を大きくする
④糸目をつける(図2)
⑤足を長くする
⑥凧の中心部(あるいは左右)に穴を開ける
⑦キールをつける(糸目に紙を張って垂直尾翼のようにする)

(ネット上の各種記事より寄せ集めて引用)

どの対策が有効かを調べるため,上記の順番に改良した凧を作って実験してみた。年末・年始の期間,凧を作っては家の前の田んぼで飛ばす日々が続いた。それを散歩中の人や車から見た人がいて,私の不審な行動が近所中の噂になっていたらしい。

実験の結果,①と④が最も効果的だったので,その組み合わせで作ることにした。「糸目(いとめ)」とは図2に示すようにABの間に2本の短い糸をつけることで回転を防ぐもの。糸目の先端を持ち,凧を吊り下げて揺らしてみると,一点で支えるより安定だと分かる。

図2 糸目の付け方の違いとキールの位置(左は従来,右は本工作)

なお,ネットで多く見かける糸目は図2の左の配置。今回の工作で用いた糸目は図2の右のもので,縦棒の両端(AとB)に糸を結ぶことのメリットは二つある。

一つは,糸目の角度を調整する場合,結んだ糸を解く必要があるが,両端だとそれが簡単になる。解く必要がない場合でも工作が簡単になる(紙に穴を開ける必要がない)。

もう一つは,糸目にキール(図2の右で黒くハッチングした部分)を付けるのに適している。キールは飛行機の垂直尾翼と同じであり姿勢が安定する(後出の図3を参照)。

なお,両端に糸をつけるため,力×長さで定義されるモーメントが大きくなり,強い風で縦棒が折れる可能性がある。しかし,上記の対策①で棒を太くしたので,その心配はない。

色々あったが,何とか工作教室開催の日に間に合った。

3. 工作教室当日の様子

工作教室の参加者は小学校1年生から6年生までの子供20人とスタッフ4人。指導員は私一人。最初に,元気に挨拶を交わした後,以下のように工作を進めた。

①私の自己紹介
②ダイヤ凧の簡単な説明と工作の順番の説明
③骨組みの作成
④型紙からの切り出し
⑤凧の絵付け(事前に下絵を描いてきて当日は写すだけ)
⑥紙の貼り付け,足の取り付け
⑦糸目の取り付け

午後1時30分から3時までの予定のところ,低学年の子供もいたので30分オーバー。それでも全員が世界でonly oneのダイヤ凧を完成させた。最後に,みんなで凧を持って並んで,ハイ・チ~ズ!

残念ながら,当日は吹雪で校庭に出られなかった。私一人が外に出て凧を上げ,子供達にはそれを窓から見てもらった。

4. ダイヤ凧の改良

「凧なんて子供のおもちゃ」と甘くみていたが,凧工作の奥の深さに圧倒された。同時に,何かオリジナリティを加えられないかという長い間眠っていた研究者魂が目覚めた。工作教室が終わってもしばらく試行(+思考)錯誤を続ける。

毎日,凧を作って飛ばしていると,いくつか発見があった。ここでは効果が感じられた二つのアイデアを紹介する。

その一つは紙の貼り方。以前は,骨組みの上にダイヤ形の紙を張り,それから湾曲させていた。しかし,湾曲によって左右のサイズが小さくなり紙の端が波打つ。その状態は左右で異なるので非対称性の原因となる。

紙に水をつけて乾燥させると少し良くなるが,元々のたるみが大きいと完全に平らにならない。このため,紙を4つの三角形OAC,OAD,OBC,OBDに分割し,骨組みを湾曲させた後に貼り付けるように変更した。最終的に完成した改良ダイヤ凧を図3に示す。自分で言うのも何だが,結構きれいに出来上がった。

図3 改良したダイヤ凧(キール付き)

もう一つは凧の操縦方法。ネットで見つけた記事に「凧が回転し始めたら糸を緩めればいい」とあった。それも効果ありと実感したが,もっといい方法を見つけた。それは,凧が右回転し出したら糸を右側にずらすこと。逆に,左回転を始めたら,すぐに糸を左にずらせばよい。これで強風でもかなり安定した飛行ができるようになった。

5. まとめ

今回の経験を一言でまとめると,,,「たかが凧,されど凧」。
凧に関する学術論文がCiNii(日本の学術論文データベース)に収録されていたり,凧の製品の特許があったり,凧作りや凧揚げ大会に人生をかけている人もいたり。

今回のイベントは,私の地元でのデビュー公演みたいなもの。苦労の末,無難に終えることができた。一方,反省点もある(指導の補助を発明クラブの他の指導員に頼めばよかった,など)。

最後に,,,
大袈裟かも知れないが,今回のご縁は神(or 仏?)様が私に与えてくれたチャンスだと思う。学童クラブでの工作教室は今後も続けるつもり。工作教室の終わりの挨拶で「また,春休みか夏休みに会いましょう!」と約束してきたので。

次の工作テーマは何にする?

(補足)

この記事を投稿した翌日,「ダイヤ凧」でググってみた。驚いたことに,この記事の画像4枚(見出し画像を含む)が「17時間前にup」というキャプション付きで表示された。昔は「悪事千里を走る」だったが,今は「ネット記事 地球の端に すぐ届く」。地方の学童クラブの活動が世界中に知れ渡るなど昔なら考えられないこと。恐ろしい時代になったものだ。


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