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回想録・出会った患者さんたち(2/7)

「富士山には、表と裏があるんでしょうかね?」
手塚チヨ(仮)さんは、私に会うたびそう聞きました。

 大正の生まれのチヨさんは、お嫁に行くまで神奈川県の二宮で過ごしました。
以前、家族旅行で富士五湖に行った際に、湖畔から見た富士山が大変綺麗だったとの事でした。きっと、幼い頃から見ていた美しい富士山にも劣らない、湖畔からの富士山の感動を伝えたかったのかもしれません。

 またあるとき「いつまでも楽しかった事を思い出すことが出来るなんて、人間の記憶っていいですね。」と言って、幼い頃は、お正月に親戚一同が集り、箱根駅伝の応援をするため、朝から沿道にゴザを敷いて、従兄弟同士で遊びながら駅伝の選手の通過を待った事を楽しそうにお話しされました。
 「また、向こうでみんなに会えるのが楽しみなのよ、でも私の事覚えているかしら?」

 私が、まだ駆け出しの雇われ鍼灸師だった二十数年前の話で、その後のチヨさんを知る由もないのですが、今年もみんなで楽しく箱根駅伝の選手を応援していたと思います。あの富士山を眺めながら・・・。

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