どの口がそれを言う?
電車が遅れました。
折悪しく通勤時間帯に発生した遅延なので、今ホームに到着した電車に果たして乗り込むことができるか否か…という、ちょっと怯むほどの激混みっぷりです。
ドアが開き、次々と人が乗り込む中、人と人との間に小さな隙間を見つけたわたしは、ちょっとすいませんよという体でお辞儀しながらそこに自分の体を滑り込ませました。
乗れた。
小柄だと、こういうとき便利です。
そのすぐあと、新たに2人組がやってきました。
もうこれ以上乗るのは無理じゃないかなと、既に乗り込んでいるみんなが(たぶん)思った瞬間、2人は猛烈に突進してきました。
わたし、見えてない?
もしくは無機物だと思われている?
という勢いで、カバンをブルドーザーか機動隊の盾のようにして無理矢理押し込んできます。
とても痛い。
痛いけどたぶん、この電車に乗らないと大事な会議に遅刻してしまうとか、どうしても会わなければいけない人がいるとか、何かしらよんどころない事情を抱えているのだろうと思い、わたしは自分の体を極限まで捻り、曲げ、縮こませ、何とか2人を車内に収めることに成功しました。
無事に扉が閉まり、やれやれ、と一息ついたものの、かなり無理な体勢を取ってしまったので、カバンの中の本を取り出せないばかりか、手に持った携帯の角度を変えることすらできません。
最後に乗ったお2人は、涼やかなお顔で携帯を片手に動画を見て笑い合っていらっしゃいます。
電車が次の駅に着きました。
降車客があったので、ほんの一瞬乗車率が180%ほどまで下がりましたが、新たな乗車客もあり、すぐに250%まで戻ります。
先ほどとは逆側の扉が開いたので、横や後ろからグイグイと押されます。
背中に誰かのカバンの角がめりこみ、胸下に何か温かいものが食い込みます。背骨や肋骨に響きますが、わたしは流れに身を任せるしかありません。
胸下に食い込んだ温かいもの(たぶん腕)が誰から伸びているものなのかすら、確認する術がありません。
そんななか、件のお2人が言い放ちました。
「痛いんだけど。
無理に乗ろうとしないでほしいよね。」
…
え?
え、え?
さっき、つい3分前、ひと駅前で、明らかに満杯なところに、無理に突っ込んできたのはあなた方ではありませんか?
どの口がそれを言うのかしら?
言える?
それ、言えちゃうもの?
…
とかく人というものは、自分の被害については詳細に語れるものの、加害については無頓着になりがちです。
わたしも、読書しているときに夫に話しかけられて「集中してるんだから、今、話し掛けないでほしいなあ」と思った3分後に、動画を見ている夫に話しかけたりするもんな。
で、なんで生返事なの、ちゃんと話聞いてよ、とか思ったりする。
なんなら言ったりもする。
どの口が…
文句を言いたくなったときは一度立ち止まって、矛盾がないか自問自答するひと手間を惜しまないようにしたいものです。