見出し画像

一番「無情」な目に遭うのは誰/レ・ミゼラブル

「レ・ミゼラブル」のミュージカルを観てきました。

若い頃に観た折は、想う男に気付いてさえもらえないエポニーヌに感情移入して落涙したものですが、今見ると「いや、生きてさえいれば、こいつ(マリウス)よりいい男いるかもしれないし、そもそも男に頼らず生きていく選択肢があなたにはありそうだけれども」と要らぬお節介を焼きたくなりました。

また、妹の子が飢え死にしない為にパン1つを盗んで投獄された主役のジャン・バルジャンの刑は元々5年で、あと14年は脱獄の罪で合計19年獄中にいたわけですけれども、バルジャンが何度も「パン1つの罪で19年牢獄につながれた」と朗々と歌い上げているのも気になりました。
いや、19年の内、14年は脱獄の罪ってジャベール(刑事)が言ってたよ、と。

そんなジャベールは、数多の囚人がひしめく中、何故かバルジャン1人に異常なまでに固執していて、常に厳しく職務に忠実で、その割にもうちょっと上手くやれない?と思うくらい何度もバルジャンを目前で取り逃がします。実はうっかりさんなの?

細かいところが気になってしまうお年頃になったのは、涙活には邪魔でしかないかもしれません。

ただ、気になりついでに登場人物を男女別で考えてみたところ、男性メンバーはみんな、ジャン・バルジャンも、彼を追うジャベールも、バルジャンを救う司教様も、エポニーヌが想いを寄せるマリウスも、革命運動を起こすアンジョルラス率いる同志たちも、そこに参加する少年のガブローシュも、悪徳宿屋の主人であるテナルディエでさえ、運命に翻弄されながらも自分で自分の行動を決め、困難な道を行くとしてもそれを自らの意思で選んでいるなと思ったのです。

一方で、女性たちはどうでしょう。

コゼットはバルジャンに育てられ、且つ想い人と結ばれて裕福な暮らしを約束されるけれども、それはコゼット本人の力というよりはラッキーに近いし、コゼットの母親、ファンティーヌはあらぬ噂を立てられて勤め先を追い出されて這い上がる道を悉く閉ざされるし、宿屋の娘であるエポニーヌは少女の頃から底辺の暮らししかしていないから、いいとこの出で聡明なマリウスが身の回りにある唯一の光だったのかもしれない。エポニーヌの母親であるテナルディエ夫人も、どうやら夫よりも優秀そうなのに自分で事業を興すとかの発想はないみたい。というかテナルディエ夫人って。名前はないのか。君の名は。

女、外圧で人生決まり過ぎ。
あと、一旦転落したらチャンス無さすぎ。

ジャン・バルジャンは特殊な例とは言え、19年も服役して「危険人物」のレッテルを貼られて尚、自分の才覚と力で市長にまで上り詰めたというのに、女の環境、厳しすぎる。

どうしたって19世紀半ばの話ですから、逆に女性が自力で運命を変えていく物語の方が現実離れしているわけですけれども。
現代もまた、一番辛いのは自分で自分のことを決めることすら許されない人だなと、そしてその宿命はいつもマイノリティが背負うのだよな、これは全然、昔話などではないのだよな…と考えながら、劇場を後にしたのです。

※文句ばっかり言っているようですけれども、ミュージカルは本当に素晴らしく、俳優さんたちは歌も演技も大変お上手で、すっかり入り込んで感涙して、拍手で手が痛くなって帰りました。

いいなと思ったら応援しよう!