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人が何かしてくれると思わない方が幸せかも

「ちょっと、置いてかないでよ!!」

階段を下っているとき、金切り声が聞こえたのでそちらを見ると、鬼の形相で上方を睨みつける20代くらいの女の人が、踊り場に立っていました。

さっきわたしとすれ違って階段を上っていった男の人(おそらく恋人)が、立ち止まって女の人の方を振り返り、ため息交じりに呟きました。

「大きな声を出さないでよ…」

女の人は「大きな声を出さないでほしいんだったら、初めから置いていかないでよ!」と尚も言い募り、大層おかんむりのご様子でした。

すごい…

何と言うか、相手の言動は自分の思い通りになるものだという前提がすごい。

わたしはそのような仕打ちを受けるような人間ではない、あなたはわたしに忖度し、慮るべきだ、という主張。

ハッとするほどの尊大さです。

ひと昔前によくいた、妻は自分にかしずくのが当たり前だと思っているお爺さんみたい。

深読みするならば、もしかしたら置いていかれたのはこれが初めてではなく、あなたとわたしとでは体力が違うのだから、階段を上るスピードも異なってくるのだ、だから歩みを緩めてほしいと何度も訴えた末の「だから前も言ったじゃない、何度言ったら分かってくれるの」的な主張だったとか、たとえば今日体調が悪いことを前もって伝えていたのに、どうしていつも通りさっさと行ってしまうの、という憤りだった、という可能性はあります。

ただもし、事前の打合せゼロで、急に怒髪冠を衝いたのだとしたら。
それは少し、相手への要求が高過ぎるのではないかと、わたしは思います。

基本的に、周りの人は自分に対して何もしてくれないだろうと思っておいた方が、幸せなのではないかと思うのです。

それに、自分から見たら「なぜこんな仕打ちをするのだろう、ひどい!」と思うようなことでも、相手は本当に、嘘でしょうと思うくらい気付いていなかっただけ、ということは往々にしてあるものです。

自分の視点と、相手のそれとは全然違います。

だってそれは、いくら付き合いが長かろうが、愛し合っていようが、分かりあっているつもりだろうが、他者だから。

一心同体なんてことは、無いから。
だからこそ人は、面白いのだから。

彼女は怒る前に、相手に質問すればよかったのではないかなと思います。

これから階段を上るにあたって、この重い荷物を持ったら恐らくわたしは遅れをとると思う。急ぐのなら荷物を持ってもらうことは可能だろうか、もしくは上ったあと、しばし上で待ってもらえないだろうかと。

その話し合いを面倒がるようだったら怒るか、あるいは潔く捨ててしまってもいいかもしれません。

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