『エチカ』 ~ 体は何も忘れてない
前回まではコチラ▼『エチカ』
⑴シャークの森 ⑵FLY!FLY!FLY!⑶ 空間と体は切り離されてはいない ⑷ 運命 ⑸ 涙の種 ⑹きずな
文中のリンクは、関連する上記の項に飛びますが、うざい場合はwスルーしてくださいね♪
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それにしてもおしゃべり鮫とレディマンタは、こんなに打ちとけて友だちのようになっていたのに、どうしてあんな嘘をついたのだろう。鮫が泳げるだなんて…。
その時、水面が輝きふたたび光の声がした。
「エチカよ、おしゃべりザメを思考屑から救えるのはあなただけです。」
「レディマンタが救ったんじゃ…?」
「おしゃべりザメは落下し巨大藻の根に落ちてしまったのです。感情を感情のままに受けとることができなくなって。」
「感情を感情のままに? それはどういうことですか? さっきレディマンタも言っていました。鮫は感情を知って混乱してると。」
「円か国のものにも本来感情はそなわっています。ですがあなた方人間が思うものよりもずっと、それはおおらかなものなのですよ。円か国のものはどんな感情にも名をつけず、解釈をかぶせず、そのままのエネルギーを体が感受します。それがいのちの豊潤な恵みとなることを知らずに智っているのです。」
「ぼくたち人間はそうではないと?」
「いいえ。体は何も忘れてはいません。あなた方人間もひとしく円か国のものなのですよ。 ただ人間は、円か国と分つ国の両方にまたがって呼吸をしています。
分つ国は、ソコとココが分つことで成り立つ世界。それは人としての生を歌う上で必要なこと。ですが、あまりに高じると人としての本来の機能を忘れてしまうのです。 名が生じ、その名のもとに解釈が生じ、人間は時に自らが生み出した思考によって、機能をありのままに使えなくなってしまうのです。魂の倍音がとじ、可能性がくだるのです。おしゃべりザメが、悲しみの解釈に飲まれ泳げなくなってしまったように。」
「おしゃべり鮫はとても悔やんでいます。じぶんが人をがぶりしたせいで、大好きだったサメ使いとも離ればなれになってしまったと…。それの何がいけないのでしょう?」
「いいえ。いけないことなどなにも無いのですよエチカ。悲しんでも悔やんでもいいのです。解釈をかぶせてもいいのです。ただ、それに気づいていることです。」
「…気づいている?」
「そうです。あなた方人間にはその機能が備わっているのですよ。 それが両方の国をまたぎ歌える人間の宿命。 困難であると同時にとてつもない可能性です。
ただ、円か国の生を歌うものたちにはその機能が育ってはいません。智性と知能は似て非なるもの。それゆえ、ひとたび涙の種を飲んでしまうと、混乱はあなた方人間のものとは比較にならない激しさで心を支配しはじめます。」
「なんだかぼくにはまだ理解しきれないのですが、とにかく円か国のものが分つ国のものを食べてしまうと、アナフィラキシーショックのように危険な状態になるということですね?! おしゃべり鮫は、サメ使いに涙の種を返してあげたいと思っています。ぼくはそれを叶えてあげたい。そうすれば、鮫は円か国に戻れるんですよね ?」
「そうです。おしゃべりザメはそれを望んでいました。そのものが望むことは叶えられて然りです。ですがどうやら迷いが生じたようです」
「迷い?どうして?! さっきあなたが見せてくれた映像では、鮫は確かにそれを望んでいまたよ」
「そうしておしゃべりザメはあなたと出会いました。同時を智る人間を探している最中に。」
「え!? あのシャークの森で? …って、ぼくと出会ったことで鮫は気が変わったとでも? はっ!!! そう、ぼく空を飛べましたよっ! で、同時を知ったのか何なのか… 。
おしゃべり鮫が言ってた__同時であることに気づくことが抜け出す鍵…__て。それが分かった!と思って… でもその途端に鮫が落下して…」
「エチカよ、知ることと智ることはまったく異なるメロディー。」
(ん?…どこかで聞いたような覚えが… そうだ、これも鮫が言っていたんだ)
__エチカくん。知ることと使うことは、まったく異なるメロディー__
そうか、森海にくるとみんな光の声を聞けるようになるんだな。ぁあそうかっ!!!
これがレディマンタがずっと聞いていたというマザームーンの声なのか!
ぼくは、レディマンタの支離滅裂のように思えた振る舞いにも、何か大事な示唆があったような気がしてならなくなった。おそらくレディマンタもあの時、種のアレルギーと闘っていたに違いない。混乱しながもぼくと何かを分かち合おうとしてくれていたんだ。 マザームーンの声を聞きつづけて気づいた何かを‥。
そういえば・・・レディマンタも解釈がどうの言っていた・・・。 鮫はあの時、なぜ急に落下した…? ぼくを宙に投げ飛ばしたのは同時を智る人間かどうかを試していたんだろ? ・・・。
「ひょっとして、ぼくが同時を分ったつもりになったことと、おしゃべり鮫が急に落下したことには何か関係があるのですか?」
「あなたの放つ周波数が変わったのでしょう。解釈は同時から切り離します。ですが本来、円か国のものがその様に極端に影響を受けることはありません。分かつ国のものとの絆が生まれない限り。」
「え?きずな…」
「同時を智る人間の心に触れたら、分つ国のものとの思い出は全て消えてしまいます。それが円か国の摂理。両方の国をまたげるのは、人間のみに与えられた宿命なのですよ。」
「えっ!?! じゃぁおしゃべり鮫は、ぼくと飛んだことを忘れたくなくて迷いが生じたと!?」
「全ては同時に生じます。ですが情が傾き過ぎると絆が撓み時空が歪むのです。歪むと均衡が破れ心に触れられなくなるのですよ。」
ぼくが生まれて初めての飛行に成功し、喜びのあまり有頂天になっていたとき、おしゃべり鮫の心の中ではそんなドラマが展開されていたなんて… 愕然とした。
いのちが取られるかもしれないというのに・・・。
それでも、なんだか嬉しい気持ちもあった。 ぼくが楽しんでいたように、やっぱりおしゃべり鮫も楽しんで飛んでいてくれてたんだ。鮫とぼくの間にも絆が生まれていたのだと思うと心があったかくなった。しかし、このままでは鮫は思考屑に飲まれてしまい円か国に戻れなくなってしまう。
「エチカよ、あなたはおしゃべりザメの気持ちをしった上で何を望みますか?」
「やっぱり助けたいです。飲んでしまった涙の種をあのサメ使いに返して、おしゃべり鮫を思考屑から解放してあげたいです!」
「おしゃべり鮫が、あなたという新たな友を得て喜んでいたとしても?」
「ぼくだって、鮫の気持ちがそんな風に動いていたとしって嬉しいですよ。でも、あるべきものがあるべきところへ戻ることは大事なことのように思えます。たとえそれが別れの痛みをともなうとしても。だけどその前に、おしゃべり鮫の心の内をぼくが直に聞いてあげなきゃ。」
「サメの記憶からあなたとの思い出が消え去っても体は全て覚えています。あなた方人間の体も同時を忘れてなどないように。」
「どうすれば巨大藻の根から鮫を助け出すことができますか? ぼくはまた同時を思い出せなくなってしまってます。」
「エチカよ、知能の想起と智性の想起を混同しないことです。空を飛んだときあなたはどのような状態だったかを思い出せますか?」
「それが… 。鮫が “フライ!” って喜んでくれたまでは覚えているのですが、どうやって飛べたのかが…」
「思い出せない。その事実に教わるのです。真に一つであるとき一つを見ることなどできません。知能が想起できるならそれは既に分かつ国のこと。どんなに追っても智性とのずれが生じます。体は常に智性とつながっています。作用の響きを信頼するのです。」
「んっ?!?」
マザームーンの声を追って脳内がフル稼働し始めたその時、
ゴ=============================ッ!!!!!
雷鳴が轟いた。
「あっ💡」
「さ、急ぐのですエチカ。巨大藻が騒ぎ出さないうちに。」
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つづく