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第2話 はじまり


『ーーということで今回の配信はここまで!』

唯花こと“ゆい”が明るい声で終わりを告げる。“まみ”や“るあ”は翌日の学校についての話題で盛り上がっている。

『それじゃあさなさん!最後に一言どうぞ!』

“ゆい”は“さな”に無茶ぶりをする。それもいつもの流れ。

『それじゃまたねー』

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      『 オフライン 』

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「ちょっとアンタ何考えてんの!?」

「別にいいじゃん。エンドロールなんて不要でしょ?」

「んー、たまにはこういうのもあっていいか…」

配信をぶつ切りした咲南花に唯花は驚き、そして受け入れる。ゆいさな特有の空気が早々に流れているのを感じる。

「あっ!ねえねえみんな!コメント欄は大盛況だよ♡」

と言って舞美が示したのは、配信のコメント欄。いきなり配信が切れて戸惑う視聴者もいれば、「さすがさな様w」「さな様は最高に尖ってて好きw」とコメントする視聴者もいた。

「うん。さなはそういう子だもんね」

「は?」

「……ごめん」

瑠愛子のその呟きにすかさず咲南花はツッコミを入れる。しかし、咲南花の言葉の毒に対する解毒剤を兼ね備えていないためか瑠愛子はうろたえてしまう。
唯花たちが出会ったのは、1年前。否、正確に言うと“6人が”揃ったのは1年前。
Rain Drops​──​──​────通称“れいどろ”として活動する前は、唯花と咲南花と舞美と綸音の4人で“四季”という名で活動していた。四季の1stアニバーサリーイベントでイベント会場に逃げ込んできた2人を匿(かくま)う予定だったのが、気づけば6人で活動することになっていた。
瑠愛子は姉たちから、花音譜は元彼から逃げていたそうだ。
そんな“れいどろ”には3つのルールがある。

①隠し事は絶対にしない
②メッセージなどの連絡は早めに返す
③常に誰かに見られていることを意識する(炎上防止)

というものだ。
唯花が懸念しているのは①のルールで、メンバーの誰かが炎上した時に隠し事をしていたら庇おうとしても庇うことができないからだ。だからメンバー全員の過去は一通り知っているし、友人関係だけでなくラブヒストリーまでお互い知っている。

メンバーのことは理解しているはずなのに。

それでもやはり、配信後や配信中でも場の空気がよくないと思ってしまうことがある。特に咲南花と瑠愛子は仲が悪く、
咲南花は、彼女のいじめっ子が瑠愛子と似ており、
瑠愛子は咲南花のような怖い雰囲気の人が苦手らしい。
他にも綸音は人と話すのが苦手だと言っており、配信内での発言回数は両手で収まるほどだ。

れいどろにリーダーと呼ばれる人物はいないがメンバーを集めたのは唯花なので、唯花はそんなギスギスした雰囲気が自分のせいだと自分を酷く責めていた。

「と、とりあえず!今日の配信のふり返りをしよっか」

「あ〜ごめん!あたし今から夕飯作らなきゃ!」

「私もこれから予定があるからごめんなさいね」

配信のふり返りをしようとするといつもこうなる。誰かの予定が入っていて全員でふり返りができない。唯花ひとりでアーカイブを見直して、改善点をメモして、次回の配信でそれらを生かす。そんな生活ももう1ヶ月は続いている。

「他の人はどう?」

「わたしは大丈夫だよ?」

「…………」

「…………」

6人の間に気まづい空気が流れる。

「じゃあ今日は解散しようか」

唯花がそう告げた途端、舞美を筆頭に5人はすぐ通話を抜けてしまった。

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