変わらない毎日。当たり前のような空間。 でも本当は、自分の居場所はここではない気がしてたまらない。 『もしもしー?聞こえるー?? 今日の夕陽、めっちゃきれいだよ!?』 『そうなんだ』 『ぜんぜん興味なさそうじゃん…(笑)』 『まあ』 『今日はお家にだれかいるー?』 『誰も。兄は家出、姉は父と病院に行った。 しばらく誰も帰ってこない』 『そっかー、大変だね』 『まあ』 綸音はそう返事をするしかなかった。 『寂しくないの?』 『何で?』 『家族とお話とか
ある夏の暑い日。私は買ったばかりの手持ち扇風機を相手に見せびらかすように仰ぐ。 海沿いのベンチに座って、意味もなく波打つ海を見ていた。 「あーあつい!夏!こっち来ないでよ!」 「誰に話しかけてんだよ」 「考えりゃ分かるでしょ!?コイツよコイツ!」 そう言いながら空を指さす。咲南花は呆れているようだった。 「はぁ……相変わらず唯花は長袖なのな。暑そう」 「もちろん暑いよ〜!下手すりゃ熱中症なるわ。でも、長袖着ないとじゃん?」 「そうだな」 すべてを話さなくても、
放課後、瑠愛子はいつものようにスポーツクラブに行っていた。今日はテニスの日で、テニスはトップ3に入るくらい好きな競技だ。 「今日は偶数だから適当に2人組を作ってラリーをしてね〜」 「瑠愛子ちゃん!今日もペアになっていい?」 「いいよ〜!」 この子は瑠愛子と同時期にテニスクラブに入った萩原(はぎはら)景(けい) 景とは同じ学校だが別のクラスで校内ではあまり接点はなかったが、クラブ活動を通して学校でも仲がいい。 そして景はある秘密を持っており、瑠愛子はそれを知っている。
テストが終わり、舞美はスキップで部室に向かう。 「おつかれさま〜!!!」 「マジでお疲れ様!てか数学やばくなかった!?あの問題、絶対中学生向けじゃないよね、、」 この子は美術部の部長だ。普段は大人しいが、スイッチが入るとすごく饒舌になる。 「だよね!分からなさすぎて逆に時間余ったもん!」 「めっちゃ分かる(笑)」 「みんなテストお疲れさま〜」 顧問はふわふわした先生で、生徒人気も高い。そして舞美もこの先生が大好きだ。 「あ、夜半(よわ)ちゃんと舞美(まみ)ちゃ
テストが終わり、部活動も再開した。 夏休みには地区大会が2つある。1つは私たち1~2年生全員で出るちょっとしたコンクール。 もう1つは厳しいオーディションを勝ち抜いた者だけが出られる、アンサンブルコンテスト ────────通称“アンコン”だ。 「ゆいちゃん!テストお疲れさま〜!!!」 「おつ〜」 この2人は双子で、メガネをかけて一見大人しそうに見えるが実際は人懐っこく元気な長谷川 椿月(はせがわ つばき) キラキラしたおめめが特徴で元気そうに見えるが常に冷静沈
───────メッセージが、来た。 綸音は部屋の隅で縮こまりながらスマホを開く。 ──────────────────────────── 『今日は行けない』 『マジか……』 『そっか〜!なら明日は学校でお勉強会しようね!!放課後が無理そうなら昼休みでもいいよ!!!♡』 『こっちは今信号待ち。もうすぐで着くよ〜』 『私も例の信号に来たよ』 『唯花と合流したよ。もうすぐで信号変わりそう!』 ──────────────────────────── 綸音はメッ
「たっだいま〜!!」 そう舞美が元気に呟くと、叔母は優しく微笑み 「今日はね、いつメンで図書館に行くんだ!!そこでテスト勉強するんだよ♪」 「ああ、あの子たちね 車に気をつけて行ってらっしゃい」 「ありがとう!!」 舞美の叔母は優しく微笑んでから舞美を快く見送ってくれた。 図書館前の信号で信号待ちしている時、何気なくスマホを見ると1件のメッセージが来ていた。それは咲南花からで『今日は行けない』というものだった。 きっと母親が許してくれなかったんだろうなと悲しくなる
テスト1週間前となり部活動が一旦停止したので、唯花は学校が終わるとすぐに走って家に帰る。 「ただいま」 「あら、おかえり」 「今日は咲南花たちと勉強会をするんだ!だから走って帰ってきたの!」 「ふーん、どこで?」 「近くに市立図書館があるじゃん?あそこに自習スペースがあるらしいから、そこでやろうかなって……」 「別に1日くらいお友だちと勉強会をしてもいいよ」 「やった!ありがとう」 「ちなみに、その自習スペースは図書館の中でもちょっと奥の方にあるから、本当に静
唯花たちにとって、地獄の時間が始まった。 「テスト期間、始まったね」 という瑠愛子の呟きに、 「わあああ!!嫌だああああ!!」 「うるさい」 叫び散らす舞美を冷たく制したのは綸音だった。 綸音は普段無口な代わりに口を開けば毒舌が飛び出す。それが綸音の魅力である。 「うげぇひどいよぉ………(泣)」 「テスト2週間前だから、課題とか小テストとかたくさん出されるよね。テストでいい点を取るためにも、小テストはがんばらないとね………」 「うえ〜ん!お絵描きしていたいよお
『すごくいい話だね』 『うん!これが最後の思い出になっちゃったんだけどね…』 瑠愛子や花音譜は、舞美の話を聞いて物思いにふけっているようだった。 『………その場所さ、今度6人で行かない?』 瑠愛子の唐突な提案に、舞美は何も言えなくなる。 『それはいいわね! 私も星空は好きだし、舞美の思い出の地がどのようなものか気になるもの』 両親のようにあたたかい2人がとても優しくて、舞美は胸が熱くなる。 『そうだねっ!今度一緒に行こ! ちなみに2人は星空エピソードは何かないの
ある日の夜中、舞美は寝付けなかったので作業することにした。1人で作業をするのに飽きたころ、何となくれいどろのグループ通話に入ってみた。 (さすがに誰もいないよね…) 誰かが来てくれるといいななんて思いながら依頼絵を完成させていた。 あまりにも誰も来ないため、そろそろ通話を抜けようとした時 『……あ、お疲れ様』 『あっ!!るあ姉だ!!お疲れ様〜』 『私もいるわよ』 『はのもお疲れ様〜!!』 『2人ともよくこんな遅くまで起きてるね』 『あたしは眠れなかったから作業
──────────────────────────── 『Rioが通話に入りました』 ──────────────────────────── 『あ、やっときた〜お疲れ様』 『お疲れ様』 『お疲れ様。遅くなってごめん』 『ぜんぜん大丈夫だよ』 『今日はお絵描きをテーマにした動画だよね!? めっちゃ楽しみ!!!』 『今さらだけど、誰が動画回すの?』 『えっとね、前回パーティーゲームの動画で舞美と瑠愛子と咲南花が回したんだよね? だったら今回は私と綸音が
それは、私が中学1年生の時。 「…そんなことが、あったんだね」 私は咲南花から部活であったことを聞いた。 「………“ロボット”って言われるだけで、すごく胸がぎゅーってなる。苦しくてたまらない。消えたくなる」 「私も、“優等生”って単語を聞くだけで耳を塞ぎたくなる。 早くここから消えたいって思ったり、とにかく自分を傷つけたかったりする。」 「唯花の方が大変だったんだよな」 「他人の不幸は天秤でははかれないよ。咲南花だって辛かったから、こうやって今話してるんでしょう?
放課後、咲南花はいつも通り体育館に向かった。部活が嫌とか、先輩が怖いとか、そんなものは一切感じなかった。 咲南花は昔から周りからの期待に応えるために誰にも本音を話さず、自身の感情すらも殺してきた。 親が喜ぶから、クラスメイトの見本になれと言われたから咲南花は部活や勉強に取り組んでいる。ありがたいことに自分は器用らしくやろうと思えば何でも“完璧”と言われるくらいの出来にはなる。 部活でも未経験なのに勧誘に負けて入ったものの、体験入部の時点で県大会には出れると周りに言われた。
「ねえねえ?瑠愛子っていつまでそんな格好すんのぉ?」 突然、長女の遥菜が不思議そうに呟く。 「それな。最近はスポーツクラブに通ってるらしいじゃん なんか雪宮家に似合わないことすんね」 それに同調するように三女の柑奈もケーキを食べながら話す。 「雪宮家の女性は先祖代々おしとやかで女性らしい方しかいないからね。 でも瑠愛子のように少しは活発でいてくれてもいいのよ」 「でもモテないじゃない」 母の問いに次女の杏奈も賛同する。 「ス、スポーツクラブは運動不足を解消するた
────────満天の星空が世界を彩る。 そのような幻想的な夜空は、現実世界でなかなかお目にかかれない。今日もどんよりと重たい曇り空を眺めながら歌の録音をしていた。 『────────♪』 「っ……」 (歌えない。思うように声が出ない) 瑠愛子は小さいころから音楽に囲まれている。 母親はピアノの先生をしており、長女は数年前に歌い手活動をしていたり、次女は過去に作詞作曲を学ぶために音楽の街へ行き、三女は小学生の時からバイオリンを習っていたりしている。 瑠