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世にも奇妙なお蕎麦物語


遠距離恋愛では
スーツケースの半分に頼まれてもないお土産をたくさん詰めて飛び立つのがマイルールだ。

もちろんイタリアと日本の距離は、ちょっとそこまで〜的な軽いノリではいけないので

しっかりと有給を取って、2週間程度イタリアに滞在する。

その時に問題になってくるのが

お腹弱すぎる問題

である。

イタリアと聞いて思い浮かぶ、そう、そのピッツァ、パスタなどの小麦粉を使った料理。

世界三大料理の1つのイタリアン。
日本人なら誰しも一回は食べてみたい本場イタリアの味。

それの何が問題かというと、この生粋の米育ちの女は、小麦粉ばかり食べると便通が悪くなり、
お腹にガスが溜まり、
一日中お腹が苦しくなるのだ。

年中快便のわたしにとってこれは
大大大問題なのだ。
便通でその日のテンションまで変わってくる。

その問題の回避策として、
スーツケースの4分の1には自分も食べていい用の食材を山ほど持参しているのだ。

飛行機をカタールで乗り継ぎ、
約20時間のフライトを経てイタリアに到着。
彼と再会のハグを忘れずに。


「今日のディナーはカルボナーラだよ」

彼の得意料理である。
ボーノである。


「今日のランチはラザニアだよ」

こちらも彼の得意料理である。
ボニッシモである。

「今日のディナーはミートソースパスタ(ラグーパスタ)だよ」

間違いなく美味しい。作ってくれてありがとう。

「今日のランチはピッツァにしよう、
映画見ながら」

ナイスアイデアである。
映画といえばピザとコーラである。

「今日のランチはお出かけしてピアディーナ食べよう」

ピアディーナは具材を小麦粉の生地で巻いた
ケンタッキーフライドチキンのツイストのようなものである。
いいね、野菜も取れるしパスタからの気分転換になるぞ。



「今日のディナーは何にしようか?」

「小麦粉以外がいいかも」

いってやったぞ。
それも食い気味に。
3日間イタリアンを楽しんだ、
どれもとても美味しくてイタリアって最高〜〜

という気分も味わった。
そろそろ言わせてほしかった。

みなさんお気付きかと思うが、
ここまで3日間連続で昼と夜は小麦粉を取っている。

せっかくのイタリアなんだから贅沢するなよ、
その国の食べ物を楽しめよ、とヤジが飛びそうであるが

でも聞いてほしい、あれが出てないのだ。
もうお腹の張りの限界が来ていた。

食い気味に、かつそれとなく小麦以外の選択肢を彼に提案した。

「日本食にしよう。お蕎麦作ってあげるよ」

小麦粉しかないという返事が来るかもしれない、
パスタが食べたいと言われるかもしれない。

そんなこと言わせない。
いまこそわたしの要望を通したい。


彼の返事は、

「いいね、お蕎麦僕食べたい!」

ふぅ、なんとか日本食をゲットした。
こんな時のためのスーツケース4分の1の日本食持参なのだ。

料理が苦手なわたしでも茹でるだけで
あら美味しい、乾麺のお蕎麦の登場だ。

抜かりないわたしは
ネギと海苔とわさびと麺つゆまで持参して
ひと時のイタリアンからの逃避を楽しもうとしていた。

5分後、お蕎麦が茹で上がる。
ここでわたしはより日本の雰囲気を楽しんでもらうために、、、

良かれと思い、天ぷらも作ってみた。
茄子と玉ねぎがあったので茄子と玉ねぎの天ぷらを作った。

ちなみに人生初の挑戦だ。

「いただきまーす」

やっとno小麦粉ご飯を食べることができる、
わたしのお腹、待たせたな!


パクッ

「、、、、、、」


不味い。

正直に言ってものすごくまずい。いまだに食べたことのない味だ。何が起きたかわからない。
茹でるだけの乾麺のどこに失敗のしようがあろうものか。

わたしの脳内は軽くパニック状態だ。


バチッ

彼とアイコンタクトで分かり合えた。
満場一致で、ミステリーの始まりだ。

「なんか変」


よかった、わたしの味覚がおかしいわけじゃなかった。

だがしかし!!なんだろうか、何がいけなかったのだろうか、

わたしは料理の才能が全くなく
学生の頃は豆腐と枝豆ばかり食べて空腹を凌いでいたもので、考えても考えても答えはでない。


これこそが世にも奇妙なお蕎麦なのだ。

ある日イタリアに連れて行かれ、
小娘に5分茹でられ、イタリアの食卓に出された
お蕎麦は奇妙な味に変わるのだろうか。


彼はそっと箸を置いて食べるのをやめた。

いいんだよ、いいんだよ。
これは世にも奇妙なお蕎麦なのだから。


このミステリーは証拠も犯人もいないが
まだ解けていない。
代わりに、あれ以来わたしが蕎麦を湯掻くことはなくなった。

世にも奇妙なお蕎麦はわたしのゼロに近い自信さえも奪っていったのだ。


いや待てよ、
そういえばわたしにはまだ希望があった、

より日本を味わうためにナイスなアイデア、
ビューティフルな心遣いで
用意していたではないか、救いの天ぷらを!!


2人してすがる気持ちで天ぷらに箸を伸ばした。


パクッ


「、、、、、」


世にも奇妙な天ぷらの誕生である。
日本食に助けを伸ばしたわたしのお腹と、
日本食に夢を抱いた彼の瞳から希望が消えた。


おいおい、
呪いなのかこれは、わたしが料理が下手というポテンシャルを持っているかつ、小麦は嫌だという負の感情を肥やしたせいで

イタリアで呪霊でも発生したんかと思うわ。

最弱そうな呪霊やけどしっかり祓ってもらいたい気持ちである。出張サービスあるんやったら、
しっかりと美味しいお蕎麦と天ぷらに戻してくれるかな。


そんな風に自分の落ち度とは一切考えていない。


「僕、もうごちそうさまするね」

お食事タイム the end。


彼とわたしに残された大量の茄子の天ぷらが、

「まだあったかいよ、美味しいよ」

玉ねぎの天ぷらが

「オニオンリングだと思って食べてみなよ、
意外といけるよ」


と話しかけてくる。

天ぷらの味を表現するならば
油と甘くないホットケーキのような味だった。

恐ろしい。


よってお2人にはお断りの挨拶をしなければならなかった。


アイマイマインをみて育ったわたしは
マインちゃんのような美少女にも
お料理上手にもならなかった
かもーねかもね、ミラクルかもね。


ちなみに、ミミカとマインちゃんは別人である。


失望を胸に、わたしの自信は天国へと昇華していった。


あれ以来、彼が料理を求めてこなくなり
わたしたちは平穏な日常を取り戻した。


あの奇妙なお蕎麦、パンケーキ天ぷらの物語は
あなたの街にも潜んでいて、
あなたの身にも起こりうることかもしれない。


これこそが世にも奇妙なお蕎麦天ぷら物語である。


※この物語は実話に基づくフィクションではございません。


では、また。








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