【記者日記】釜ヶ崎·強制代執行のその後
かわすみかずみ
全ては2019年に始まった。コロナが流行してすぐのこの時期、外出を控えるように政府が呼びかけていた。釜ヶ崎でもちらほらとコロナ感染の噂を聞いた。吉村洋文大阪府知事は、コロナ禍のこのような時期に、大阪地裁に旧あいりん総合センター前に寝泊まりする住民約20人を提訴した。
裁判の中で、住民がいなくなっていたり、死亡していたことがわかり、人物の特定ができないことが明らかとなると、府は住民と支援者が抵抗運動を行い不法占拠している、と主張を変えた。
だが、裁判所は府の言い分を認め、今年5月に強制代執行を許可した。
ともに歩む者たちは当初、監視小屋を設置。毎日寝泊まりして、朝晩ミーティングを行っていた。だが、万博やカジノの状況も合わせて考えたところで、当面は代執行はないのではないかとの見通しとなり、監視小屋はなくなった。
12月1日、それは突然やってきた。予告もなく、本当に突然だった。常設されていた団結小屋に泊まっていた男性によれば、朝8時過ぎに起きたら、既に執行官が小屋の入り口に立っていたという。男性は令状や判決文を見せられ、退去を命じられた。男性が小屋を出た8時半頃、既に周辺で寝泊まりする人々はいなかったとのこと。
その後の状況は、人民新聞noteで以前書いた通りだ。強制代執行後も、毎週月曜日の共同炊事は続いている。だが、毎回警察官がやってきて妨害することが続いているようだ。強制代執行で、共同炊事の道具や、寝泊まりしていた人々の家財道具も、不法投棄のゴミと一緒に持っていかれた。それでも残った道具で共同炊事は続く。おっちゃんたちの命をつなぐ大事な食事だからだ。これまでおっちゃんたちが将棋を打っていた「萩小の森」という公園は、強制代執行の日から閉鎖されたままになっている。おっちゃんたちが使っていた将棋のセットは、袋にいれて公園の外に置かれていたと、ともに歩む人の証言があった。
萩小の森の管理者である「まちづくり合同会社」にメールで「12月1日に公園を閉鎖した理由は何か?」と問い合わせたが、12月17日現在返答はない。
旧あいりん総合センター前の駐輪場でも、11月24日頃から張り紙や声かけがあり、寝泊まりする人々を追い出す動きがあった。また、強制代執行の当日は駐輪場も閉鎖されている。
西成区役所に確認をとる。同区役所の回答は以下。
「駐輪場の管理者であるまちづくり合同会社から、寝泊まりする人がいるので困る、と訴えがあったため、張り紙や声かけを行った」。これまでそのような訴えは管理者からあったのかと問うと、区役所はないと答えた。大手メディアは朝6時過ぎからスタンバイして、強制代執行の執行官らが来るところをカメラで捉えている。これは、事前に情報をえていた確証だと、住人らは言う。
知らされなかったのは住人らだけだったのではないかという悔しさが、その言葉に滲む。せめて、事前告知ができたのではないか。せめて、事前協議の場を設定してほしかったという住人らの憤りが見える。
今年の釜ヶ崎の越冬も、厳しいだろう。だが、住人らはたくましく生き抜いていく。私もその姿に励まされ、自分の弱さを痛感しながら、今年も越冬を見にいく。