金のない世界は成立するのか? 『行為と労働に関する考察【アンチワーク哲学】』の紹介と感想
*この文章の内容は、
「行為と労働に関する考察【アンチワーク哲学】」
(まとも書房/哲学者ホモ・ネーモ 様 )
という記事の紹介、及び感想です。
先日、執筆者に対し質問をしたところ、こちらの記事にて返答をいただきました。
質問への返答、及び「犯罪組織罪務省」という名前について触れてくださったこと、ありがとうございます。
我ながらなかなかイカした名前だと思っています。
執筆者は「強制なしでも人は働く」、そして
「人類社会は最終的に金と決別することが可能だろう」
という考えを持っておられます。
上の記事の中で、特に強く印象に残ったところを引用させていただきます。
実に興味深い話で、勉強になりました。ありがとうございます。
以下、記事にある「金のない世界」について考えてみました。
お金のない世界に長所は多数あります。
特に今の競争過剰の社会ではなおさら。
しかし、それ以上に問題も多いと考えます。
金のない世界の長所
1 競争地獄の否定。以下から逃れやすくなる
金稼ぎ・金勘定などの煩わしさ
金でしか物や仕事を測れなくなる呪い
努力だけでは勝てないことを忘れ、大勢を見下し無能と吐き捨てる愚かしさ
仕事・報酬・居場所を得る難しさ
勝たなければという焦燥・強迫
転じて不正・強盗・詐欺などの踏み外し
敗北による劣等感・自信の喪失・自分への侮蔑・酷ければ犯罪・自殺
転じて周りへの八つ当たり・虐待などによる負の連鎖
金持ちなどの勝者?に対する僻み
転じて競争を駆り立てる存在・自分の苦しみの元凶(政府・財務省など)をわからなくさせる
勝ったら勝ったで次の競争に駆り立てられる
勝利・蹴落としで発生する、物・地位・機会の強奪、罪悪感、恨み
さらに勝利を積み重ねれば、勝ち取った地位・栄光の守りを強いられる。自分もしくは周りが、失敗・敗北を許さなくなる
2 競争が減ることにより、様々な以下の支払い(しかも悉く全体の豊かさにつながらない)の拒絶
企業側
労働者への配慮(有利な経歴の提示、解雇の縛り、一定以上の給料など)
迷惑な労働者を掴まされる危険
労働者
就職活動
信用されやすい能力・経歴の取得
ろくでもない企業を掴まされる危険
共通
自分が選ばれるための宣伝
情報吟味
契約交渉
関係を続けるための信頼構築
事務や手続き
強盗される税(消費税とか消費税とか消費税とか)
上記の諸々や、消費税などの複雑極まりない仕組みへの対応・調査・勉強する時間
上の煩わしさから転じて、起業・仕事の存続などに必要なやる気
参考:
3 家族・村などの小さな範囲で助け合う場合の長所
選ばれるための競争を拒否しやすく、自分の仕事が必要とされやすい
必要とされることは、喜び・自尊心・仕事のやる気につながりやすい。
仕事のやる気が出ればいい仕事につながり、別の誰かのやる気につながるという好循環になる
自分が働いたから誰かが自分を助けてくれる、という形で間接的な報酬を得やすい
仕事・華やかさなどの魅力?を作りにくい地方からの人口流出を抑える
金稼ぎにおいて評価されにくい、全体のための活動(生産・インフラ・治安維持・出生など)を評価されやすくする
参考:
金がない世界の問題
1 貨幣機能(交換・尺度)の喪失
食料・水・医療・輸送・教育・娯楽などなど、商品との交換が難しい
交換できたとしても足元みられやすい(助け合える相手がいたとしても、これらの不安は常にある)
大地震・戦争中などの非常時はなおさら
商品の値段は売る側の独占・寡占状態になりやすく、値段が高くなりやすい
外での商品交換に使えるものを持ち出しにくく、家族や村などの集団の外に出にくい
狭い範囲でしか機能しない友情・愛情などは、外には持ち込めない
仕事の怠け・裏切りなどへの対処・抑止力が機能しにくい
労働ごとの価値の比較が難しく、搾取されやすく気づきにくくなる。
個人に厳しい地域特有の決まり(全てではない)を拒否しづらい
貿易はどうするのか。特に日本は資源や食料を多く輸入している。
ゴールドで取引する場合、金本位制のころの重商主義に戻りかねない。貿易黒字絶対主義、通貨安競争、下手すれば戦争してゴールドを奪うという発想にもなりうる
2 貨幣機能(貯蔵)の喪失
怪我・病気・災害・失業などへの備えができない
特別貧しい人たちにとっては命綱の喪失
助け合いの社会だとしても、周りが助けてくれる保障・強制力はない。
その周りもまた病気などで、手を貸せない状況になり得る。(災害・戦争・恐慌時などはなおさら)
手を貸してくれたとしても、失業や重病などを何とかできるのか
介護など、報酬なしで片方だけが尽くし続けるのは危険(する側は嫌になっていくし、される方も後ろめたさが強くなっていく)
貨幣以外で価値貯蔵できる資源・ゴールド・もしくは食料などすぐに必要なものの需要が増え、それらが高騰しやすくなる(需要が増えるという点ではよい面もあるが)
1と2の参考:
3 世の中に不可欠な役割(儲からなくても)の増加・維持が厳しい
農業・畜産・輸送・発電・水道・ガス・警察・裁判官・教師・国防・施設の建設・修復等々。
これらは、しんどい・汚い・嫌がられる・危険・様々な勉強や経験が必要 などなど、始めるのも続けるのも難しい。
特に国民の生存に直結する供給力は、非常時になる前から蓄え、維持し、失われるのを防がなければならない(今もほぼ非常時だが)。24年1月の大地震のようなことが起こる前から。
まして食糧危機・自然災害・侵略者などの危険が間近にある場合はなおさら。(特に敵対国家には、耐えて嵐が過ぎ去るのを待つという手段が使えない。状況がただ悪化するのみ)
切羽詰まっている状況で重要かつ負担の大きい仕事を頼むのに、貢献欲・自負・愛国心といった形のないものだけで足りるのか?
報酬だけが働く理由ではなくても、働く理由を複合的にすべきでは?(理由の1つが失われても辞められにくくなる)
4 報酬がきちんと支払われる意義の低下・喪失
仕事を始めるきっかけ
仕事や自分自身を認められるという自負
自己評価低下・士気減少・責任の放棄・不正・裏切り・見限りを減らす
物やサービスの供給力強化には、工場建設・雇う労働者の増加などの投資が不可欠。
仕事の維持・能力の発展(目的が報酬でなくとも)
雇用者増加・工場建設などによる供給力強化
5 貨幣以外で報酬になるものはあるのか
ゴールドは各国の奪い合いになりやすく、色々と厳しい(あのアメリカでさえ71年に金本位制をやめた)
銀・原油・ガスなど他の資源でも、おそらく似たような問題が起きる
暗号資産も、値動きが大きすぎる・クラッキングで奪われる・(ビットコインなどは)発行数上限があるのでデフレ対策に使えないなど問題だらけ
地域振興券など狭い範囲限定の貨幣は、受け取った店側が別の何かとの交換、もしくは仕入れ・税の支払いなどに使えるようにする必要がある
結論
貢献欲・承認欲など、貨幣以外の動く理由は欠かせません。
特に競争と拝金主義がはびこる今の社会では。
一方で、貨幣を完全になくすことは、あらゆる意味で非常に厳しいでしょう。つまり
貨幣自体は残す
貨幣以外の動く動機を高く評価する
村などの狭い範囲で自給自足にやれることを増やし、競争・金のやりとりを強制される範囲を減らしていく
国民全体のためになり、かつ冷遇されやすい活動(特に出生)を優遇・金が渡るようにする
それらの必要な活動への疑似的な報酬、および競争の否定という点で、BIは不可欠
以上を提案します。
お時間をくださりありがとうございました。