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怪獣保険
突如出現した怪獣に人々は苦しめられた。
その巨体に成すすべがなく自衛隊はことごとくやられてしまった。
そんな時、突然ヒーローが現れたのだ。
ヒーローは巨大化して怪獣と大乱闘を繰り広げた。
投げ技を得意とし、光線でトドメをさし怪獣は爆散する。
人々は救われた。
しかし、怪獣は何度もなんども現れる。
その度にヒーローは駆けつけた。
そんなことが日常になった頃、怪獣保険なるものが登場するのは自然なことだった。
怪獣に破壊された家屋の修理費をまかなう保険だ。
誰もがこぞって保険に加入した。
「あのー怪獣騒ぎで家を壊されてしまって…保険を適用して欲しいのですが」
疲れたような男が保険の窓口でそう訴える。
「それはそれは、大変でしたね。お怪我はありませんでしたか?さっそくですが、日時とご住所に怪獣の名前をお伺いします」
窓口担当者は優しい声で答える。
「えーと、△月✕日◯◯町8丁目32番地で、怪獣はチョンヌウドンです」
男はメモ帳を見ながら言う。
「はい ありがとうございます。双頭獣チョンヌウドンですね すぐに映像を確認しますね」
窓口担当者はPCをカタカタと操作して映像を確認している。
怪獣保険が普及してからというもの、怪獣騒ぎは複数のドローンで全てが記録されている。
「◯◯町8丁目32番地の被害は怪獣の破壊工作ではなく、ヒーローが投げ飛ばした怪獣が落下したことが原因のようですね」
「残念ですが、これでは怪獣保険は適応できません。お客様はヒーロー特約をつけていらっしゃないので…」
窓口担当者はさも残念そうに伝える。
男は抗議をしたが、規約を見せられ何も言い返せずに帰っていった。
「では次の方どうぞ」
窓口担当者は次々と客を捌いていく。
今日も一件も保険を適用していない。
ヒーロー特約は割高で加入する人はごくわずか。
そして家屋を破壊するのは殆がヒーロー。
窓口担当者は電話の受話器を上げ、内線をかけた。
「もしもし、ヒーロー課ですか?窓口担当ですが、そちらのヒーローにもう少し自然に家屋を破壊するように伝えてください。あからさま過ぎます」
やれやれといった風に電話を切り「では次の方どうぞ」と客を捌いていく。
「わしの管理しているタワーマンションが倒壊してしまった。保険の適用を頼む」
窓口担当者はいつもの様にモニターで倒壊の様子を確認する。
するとみるみる顔が青ざめていく。
「これは完全に怪獣の破壊工作と認められます…。お客様のタワーマンションはこちらで全額保証いたします…」
窓口担当者の声は震えていた。
客は満足げに帰っていく。
窓口担当者はすぐに受話器を上げ、内線をかけた。
「もしもし、怪獣課ですか?ちょっとなんてことしてくれたんだ!そちらの怪獣がどえらい損失を作ってくれたぞ!」
「✕日に〇〇町に出現させた怪獣は即刻処分してください。これは規約違反ですよ!」
「では、よろしくお願いしますよ」
窓口担当者は受話器を叩きつけ「あのアホ怪獣チョンヌウドンめ」と吐き捨てる。
その時、外が騒がしくなった。
人々の叫び声と逃げ惑う声が聞こえる。
まさか…怪獣が!?
この保険の窓口には現れない規約なのに…。
「チョーーーーン」
「ヌゥーーーーン」
とふたつの鳴き声がする。
あの ふたつの頭を持つアホな怪獣チョンヌウドンが襲来しているらしい。
「まずいこの窓口は怪獣保険に加入していない」
ズドーン。
窓口は担当者もろともペシャンコになった。