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ズレ

「どうして売れないんだ!」

僕は魂の底から叫んだ。

ここ数年 研究室にこもり実験に実験を重ね ようやく完成したというのに。
全く売れない。
世間のニーズを調査し、そのニーズに答えるように考案した画期的な商品だというのに。

もちろん実際に使って効果は実証済みだ。
完璧に機能して最高の結果をもたらしている。
僕自身コレがない生活は考えられないぐらいだ。

世の中はインターネットに支配され 人間たちは自分たちの貴重な時間の大半を その虚無な世界へと投じている。

ネット依存症なんて言葉が普及して久しい。

僕はそんな状況を打破するべく研究を重ねてきた。
どうすればインターネットから離れることができるのか。
それは実は簡単で、毎日する行為と紐付ければいい。
この商品さえ使えばデジタルデトックスを気軽にできるんだ。

コレが普及すれば人類は救われるはずなのに。

デザインにも気を配った。
常に持ち歩く事を前提とし 携帯性を損なわない展開ギミック。
筐体の上部からはフックが左右からはアームが瞬時に展開する。
時代に即して音声入力での起動はもちろん スマート家電と同じように管理できるようにもした。

僕が数年引きこもっている間に世間の考え方が変わったとでもいうのか?
それとも僕の考察がズレているのか?
いや、この商品が提供するのは 普遍的な営みであり必要不可欠なはず。

ま、まさか人類は洗濯という家事から解放されたというのか…。

いや、そんなはずはない。
たしかに乾燥機付き洗濯機は想像しているよりも普及しているだろう。
しかし 数年で全て置き換わるなんてことは考えられない。
必ず干す工程があるはずだ。

問題が洗濯ではないとすると デジタルデトックスの方が怪しいな。

ま、まさかデジタルデトックスを緩和 もしくは中和する薬剤でも完成したのか…。

いや、そんな劇薬は認証を通すのに数年じゃ難しいだろう。
仮に強行で認証されても この商品が売れなくなるほど市民に普及するとは考えにくい。

くそっ!

いったい何故売れないんだ。
性能かデザインかコンセプトか。

なんとか世間とのズレを解消しないと…。

いや、まて。
大切な事を見過ごしていたかもしれない。
性能もデザインもコンセプトも悪くない。
アフターサービスを全然考えていなかった。

客は思うだろう。
これだけ複雑なギミックが搭載されて、毎日使うアイテムには故障が付き物。
フックやアームの交換は容易か、その値段は安いか自力で交換か交換サービスはあるのか。
手に取り悩み、買うのを躊躇ってしまう。

これだ!
なるほど。
アフターサービスが弱いことが売れない原因だったか。

やはり僕は天才だ。
世間とのズレを見極め解消した。
各種パーツを交換しやすいように改良が必要だ。
よーし。
すぐに取り掛かろう。
なぁにあと半年もあれば完璧な商品に仕上がるだろう。





「ふぅ完成だ」

予定よりも2ヶ月程はやく仕上がった。
しかし抜かりなく完璧だ。
デザインはもちろん性能や携帯性を損なうことなくフックやアームは簡単に着脱できるようになった。
さらに少し小型化にも成功した。
そしてフックとアームには様々なカラーや形状を準備した。
これで付け替える楽しみもプラスされたのだ。

自分の才能が怖い。

さぁ発表するぞ。
これで社会からデジタルデトックスは解消され、僕は大金持ちだ。

さぁこれが新商品だ。
世界よ 震撼しろ。



新商品「ハンガー機能付きスマホ2」発売!!


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