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人間の可能性
「ママー!僕ね、将来は猫ちゃんと結婚するー!」
性的マイノリティの問題が取り沙汰されてから随分と時間が経った。
そのマイノリティは徐々に浸透し すっかり一般的な思想となった。
しかし、人間というのは可能性の塊であった。
その性的趣向の矛先は種族を越えたのだ。
次第に 猫や犬などの動物にしか性的趣向が示せない人間が現れだした。
しかしLGBTQ+という性的マイノリティを受け入れてきた手前、それを拒否することはできなかった。
かくして人類は様々な生き物に人権を与え 婚姻していった。
あるところでは猫と結婚したのはいいが、死んだ後 庭に埋めた事が発覚し 死体遺棄で逮捕された。
またあるところでは ドッグランで犬同士が噛みつく喧嘩になり 傷害事件として裁判になった。
極めつけには犬や猫をニャンコやワンコと呼ぶことは侮辱罪にあたるとされ 処されていった。
しかし人類は幸福だった。
何物にも縛られない幸福。
自分の性的趣向を批判されず 自分で決めることのできる社会。
社会は完全に多様性を受け入れたのだ。
人類学者が「このままでは子どもが生まれずに人類が滅ぶ」と声高に叫んだが、その声は既にマイノリティとなっていた。
そしてある時、革命が起こった。
人類は物質や概念にも性的趣向を傾け始めたのだ。
このクルマと結婚したい。
この方程式と結婚したい。
この物語と結婚したい。
この家と結婚したい。
この土地と結婚したい。
そんな人間が徐々に増え始めた。
しかし、以前に動物への性的趣向を認めた手前、拒否することはできなかった。
あるところでは結婚したクルマで単独事故を起こし、無理心中を図ったとして逮捕された。
またあるところでは家と結婚した後、売却したことが人身売買にあたるとして裁判になった。
極めつけには土地と結婚したはいいが、他人がその土地に入ろうものなら強姦だ!と騒ぎ殺人事件に発展するまでになった。
人類学者は「このままではその内妄想の中に性的趣向を見つけるようになる」と声高に叫んだが もはや誰も聞いてはいなかった。
人類はみるみる内に数を減らしたが、なんとか人工授精でほそぼそと生きながらえていた。
そうして長い時が流れた後、人類の救世主ともいえる突然変異を人為的に作り出すことに成功した。
その突然変異で生まれた男の子は言う。
「僕…おかしいと思われるかもしれないけれど…」
「人間の女の子がスキなんだ」
人類は喜んだ。
これで滅亡せずにすむぞと思った。
しかし、この突然変異では男の子しか生まれなかった。
この突然変異で生まれた 人間の女の子がスキな男の子は、世界で唯一自分の性的趣向を満たすことの出来ない人間となった。
そして世界中でもっとも奇異な性的趣向の持ち主として脚光を浴びることに性的趣向を開花させた。
ほどなくして人類が滅亡したのは言うまでもない。