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ドラムのなかにないぞう

今日も窓の外は暗い。

仕事の疲れが残っていて身体が重い。

こんな日は洗濯物を乾燥機にぶちこんで楽するに限るな。

どうせひとりだし 部屋干ししても問題ないけれど、それは僕の美的感覚が許さない。

なんて心の中でブツブツといいながら汚れた衣類をドラム式洗濯機に放り込み「おまかせ」のスイッチを押す。

僕はこの昔ながらのやり方が好きだ。





ドラム式洗濯機は 乾燥を終えた とアラートを鳴らし、僕は目が覚めた。

昨日 押収したゲームに熱中して いつの間にか眠ってしまったようだ。
少し時間が勿体ないようにも感じたが、まぁ時間なんて気にしても仕方がない。
それにしても奇妙なゲームで噂以上だったな。


すぐに立ち上がり ドラム式洗濯機の前に立ちふさがる。

僕は服に皺が刻まれる前に救出する事に 使命を燃やす良い男なのだ。

このドラム式洗濯機とは長い時間ともに旅をした良き相棒だ。

AIも搭載されていない随分な旧式だが、今日も完璧に乾燥してくれていることだろう。



ん?
ドラムの窓が黒い。

中がよく見えないな。
そんなに洗濯物をはたくさん入れていないはずだが。

それにしても、これはなんだ?

黒く見えるのは暗いせいのようで よくみると赤色だ。


思考が停止し不安が押し寄せる。

ポケットになにか入れっぱなしだったか。
何か回しちゃまずいものを回しちゃったかな。

後悔しつつ思考を再開させる。

ポケットの中身を回してしまったにしても、こんなにも一面赤くなるもんだろうか。

うっかりケチャップをボトルごと入れたのか?

いやそんなわけはない。
どう考えても気が付くだろう。

それに僕はマヨネーズしかかけない。

しかも ここには僕しかいないはずだ。

なら この赤いのはなんだ。



開ければ解る。

はやく開けよう。

もうすぐ予定時刻だ。


でも

もし何か生き物が入っていたら?

ドラムの熱風地獄数時間を耐えられるとは思えないが。

この赤いのがもし血だとしたら。

人間でも死んでるんじゃないだろうかと思える量だ。

エイリアンでも侵入したかな。

一番ありえそうな可能性に行き当たったが、そんな訳はないと考えなおす。


警備を呼ぶか?

いやいや。

変に疑われるのは困る。

やっと帰る事ができるのに。

それに あのゲームの事がバレるとまずい。

勝手に色々といじくるんじゃなかった。

融合fusionゲームはまだ地元では遊べないし魔が差してしまった。

そういえばまだ繋げたままだったな。
最後の方は寝ぼけていて何を融合させていたか思い出せない。

後でちゃんと回収して隠しておかないと。


とにかく 今はドラムの中身を自分だけで対処する方法を考えないと。

落ち着け僕。

冷静に状況を分析するんだ。

おまえは優秀な人間だろう。
そうさ僕は優秀な国際公務員だ。

まずこの部屋にこんなにも血がでるような生き物はいない。

もちろん僕の血ではない。
一応身体を見てみたが少し腹痛がするぐらいで外傷はない。

だから余計にコワい。

いったいなんなんだこの赤いのは。

くそ。

開けずに解決する方法はなさそうだ。

でも開けると この赤いのが外に流れでるよな。

嫌だな。
もう時間がないのに掃除をしている余裕はないぞ。

マジでなんなんだこれ。
少しイライラしてきた。

僕は実はシリアルキラーで昨晩連れ込んだ女を惨殺して洗濯機で洗ったとか?

ないない。

そもそも、ここに女なんていないじゃないか。

いや、いても惨殺なんてしないし まして洗濯しようなんて思わないよ。

ハハハ映画の見過ぎだ。
人間さえいやしないのに。



開けるしかないか。

バスタオルを洗濯機の前に敷いて。

服が汚れても嫌だし脱いでおくか。

ひとりでよかった。

こんなことなら分子破壊式洗濯乾燥機に交換にしておくんだった。


後悔しつつ深呼吸してからとってを掴む。

いざ。

覚悟を決めて、引っ張る。

グググ。


開かない。

何かひっかかっているようだ。

何だか急激にお腹が痛くなってきた。


大きく深呼吸をして僕は力まかせに引っ張った。


扉は勢いよく、裂けるように開いた。

痛ッ。

お腹が痛い。

僕はゆっくりと洗濯機の中を覗きこむ。

そこにはぎっしりと なにかヌメヌメしたモノが詰め込まれていた。

さわると温かく 脈打っているように感じる。
温かいのは乾燥直後だからあたりまえか。

ならヌメヌメしているのはおかしい。

やっぱり なんか動いてない?

これってよく見たら内臓に似てないか?
なんで洗濯機に内臓が内蔵されているんだよ。


あぁお腹が痛い。

目線を下に向けると、へその周辺がドラムの扉のように開き 中には衣類の切れ端のようなものが見える。

あれ俺の内臓が…ないぞぅ…。


うぇ。

洗濯機からドボドボと ヌメヌメした内臓があふれ出る。


ビシャっと床に落ちる自分の内臓を見ながら僕はその場に崩れ落ちる。


その最中、チラッと見えたゲーム画面にはドラム式洗濯機と人体の絵が重なりあっていた。


あぁ。
ヌルヌルで温かい。




「間もなく地球に到着します」


そんな待ち焦がれたアナウンスは もう僕の耳には届いていなかった。

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