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細菌人間
あーうるさい。
最近、幻聴がひどい。
何を言っているのかわからないが、人混みの中にいるような ざわざわした感じがずっとある。
これじゃ眠れない。
幻聴はストレスが原因と聞くが、眠れなくて余計にストレスが溜まってしまう。
面倒だが医者にいくしかないか。
重い足取りで精神科に行ってみたが、異常はなかった。
よかった。
次に脳神経外科へ行ってみたが、異常は認められなかった。
いったい何が悪いんだろう。
耳の問題だから次に耳鼻科へ行ってみた。
初めからこうするべきだったかもしれない。
耳鼻科の先生は顔をしかめて言う。
「これは細菌人間が住み着いてますね。ここまで発展していては耳鼻科ではどうしようもありません」
「役所への紹介状を書くのですぐに『細菌課』へ行ってください」
僕はわけがわからないまま役所へ行き、細菌課というところへ行った。
「この度は、細菌人間が耳の中に住み着いてしまったということで、手続きをしてまいります」
窓口の担当者は淡々と話を進めていく。
「あのー。細菌人間ってなんなんです?駆除にはいくらぐらいかかりますか?」
僕は戸惑いながら尋ねる。
耳の中のざわめきが大きくなったような気がした。
「あ、そんなことを言っては後で訴えられても文句は言えませんよ。細菌人間も立派な人間であり、人権が憲法で認められておりますので」
「そんな…これからずっとこのざわざわした環境で生活するんですか?」
僕の人権はどうなるんだ。不法侵入でしょうよ。
「まぁまぁ落ち着いてください。みなさん初めは混乱されるのです。今回の場合は文明が進んだレアケースですので、それも致し方ないことですが」
こんな細菌課だなんて今まで聞いたこともなかったが、政府がきちんと対応しているところをみると僕の勉強不足だったようだ。
渡されたリーフレットには「細菌人間の歴史」とある。
以外と古くから細菌人間と人間は共存しているらしい。
「人権侵害に当たりますので、無理やり立ち退きを迫るわけにはいきません。こちらで専門のネゴシエーターを派遣し、交渉を進めてまいります」
はやくこの雑音を取り除いて欲しい。
それにしてもなんでよりにもよって僕の耳に。
僕がため息をついていると、担当者は明るく言う。
「まぁそう落ち込まないで、私の耳にも細菌人間がいらっしゃいますから。幸い 文明はまだ石器レベルなので、何も支障はありませんがね」
「さっきも文明とか言っていましたね。僕の耳にいる細菌人間はどんな感じなんですか?」
僕は疑問を投げかける。
「そうですね。近代レベルでビルが立ち並び、列車が走っています。うるさいわけですね」
ひとの耳の中のでなんてことを…。
「では後日、近代レベル対応のネゴシエーターを派遣いたしますので、細菌人間を刺激しないようにお願いします」
「我々は宇宙開拓レベルですので、近代程度であればなんら問題ございませんので安心してください」
担当者は淡々と業務を進めて行く。
「我々は宇宙開拓レベル?それってどういう意味ですか?」
僕はわけがわからずにそのまま聞き返す。
「あ、いえこれは言ってはいけない決まりになっておりまして、失言でした」
担当者は焦って周囲をキョロキョロ見回している。
「誰にも言わないから教えてくださいよ。さもないと僕の耳の細菌人間にあなたの耳に引っ越しするように依頼しますよ。」
僕はヒソヒソと伝える。
「…誰にも言ってはいけませんよ」
担当者も小さな声で言った。
「我々は巨大人間の耳の中で暮らしているのです」